・・・ 悪魔降伏。怨敵退散。第×聯隊万歳! 万歳! 万々歳!」 彼は片手に銃を振り振り、彼の目の前に闇を破った、手擲弾の爆発にも頓着せず、続けざまにこう絶叫していた。その光に透かして見れば、これは頭部銃創のために、突撃の最中発狂したらしい、堀・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・どうやら、日本は降伏するらしい。明日の正午に、重大放送があるということだ」「えっ? 降伏……? 赤鬼が青鬼になった……? ふーん」 白崎は思わず唸ったが、やがて昂奮が静まって来ると、がっくりしたように、「俺はいつも何々しようとし・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・持ち運んだ荷物全部を焼失してしまい、それこそ着のみ着のままのみじめな姿で、青森市の焼け残った知合いの家へ行って、地獄の夢を見ている思いでただまごついて、十日ほどやっかいになっているうちに、日本の無条件降伏という事になり、私は夫のいる東京が恋・・・ 太宰治 「おさん」
・・・ × 日本は無条件降伏をした。私はただ、恥ずかしかった。ものも言えないくらいに恥ずかしかった。 × 天皇の悪口を言うものが激増して来た。しかし、そうなって見ると私は、これまでどんなに深く天皇を・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・そうしてまもなく日本の無条件降伏である。 それから、既に、五箇月ちかく経っている。私は新聞連載の長篇一つと、短篇小説をいくつか書いた。短篇小説には、独自の技法があるように思われる。短かければ短篇というものではない。外国でも遠くはデカメロ・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・青森の中学校を出て、それから横浜の或る軍需工場の事務員になって、三年勤め、それから軍隊で四年間暮し、無条件降伏と同時に、生れた土地へ帰って来ましたが、既に家は焼かれ、父と兄と嫂と三人、その焼跡にあわれな小屋を建てて暮していました。母は、私の・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・一九四一年一月からはじまった第二回の執筆禁止は、一九四五年八月十五日、日本の侵略的な天皇制の軍事権力が無条件降伏をするまで、五年の間つづいた。 中断されたこの時期に、評論集としては、『昼夜随筆』『明日への精神』『文学の進路』などが出版さ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・ 日本が降伏して、日本の民主化がいわれはじめた。新しい日本の社会生活へ生れかわろうとする人民の真実な希望がうかがわれるらしく見えた。しかし三年たったいま、わたしたちのぐるりにある光景はなんだろう。三年たつうちに、民主化されようとする波を・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・彼女から制作と生活とを奪ったナチス・ドイツが無条件降伏したのは一九四五年五月であり、ケーテは、人類史が記念するこのナチス崩壊の日を目撃してから二ヵ月めの一九四五年七月に、ドレスデンで七十八歳の生涯を終った。 ナチスの迫害のうちにすごした・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
この間田舎へかえる親戚のもののお伴をして珍しく歌舞伎座を観た。十一月のことで、序幕に敵国降伏、大詰に笠沙高千穂を据えた番組であった。 この芝居をみていて深く感じたことは演劇のとりしまりや自粛がどんなに芸術の生命を活かす・・・ 宮本百合子 「“健全性”の難しさ」
出典:青空文庫