・・・けれども、切角林町で幸福に、深い感興を覚えて来ても、一歩家に入ると、Aの、何とも云えない険悪な、陰鬱な感情に充満されて居るのを見るのが、如何にも自分には苦しかった。 彼には、私が独りで彼方に行き、独りで相当に楽しく愉快にして来るのが、云・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・そうすれば、どんなに軽く見積っても、昨日の十二時以後東京はその非常手段を必要とするだけ険悪な擾乱にあることだけは確だ。 私の思いは、忽ち父の上に飛んだ。父の事務所は、丸の内の仲通りにある。時刻が時刻だから多忙な彼は、どんな処にいて、災害・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・現下の険悪な世情は、政治家が聖勅に違背したことに基づく。というのは、天下万民をして「各々その志を遂げ、人心をして倦まざらしめんことを要す」との聖旨を奉戴しなかったことに基づく。国民の大部分がその志を遂げようとすることを、なんらか危険なことの・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫