・・・しかし、それらは、いま険阻な山奥に残っていて、捕らえられたくまのことを思い出しているかもしれませんが、そのくまの故郷は、だんだん遠くなってしまったのです。このくまも、やはり毎日駆けまわった山や、谷や、河のことを思い出しているのかもしれません・・・ 小川未明 「汽車の中のくまと鶏」
・・・しかし、こうした嶮岨な場所に生じたために、しんぱくは、無事に今日まで日を送ることができたのであります。けれど、それは、また偶然であるといわなければなりません。 なぜなら、たとえ、人間の力では、そこへは達しなかったけれど、自然の力は、いつ・・・ 小川未明 「しんぱくの話」
・・・ 登山流行時代の今日スポーツの立場から嶮岨をきわめ、未到の地を探り得てジャーナリズムをにぎわしたような場合でも、実は古い昔に名の知れない測量部員が一度はそこらを縦横に歩き回ったあとかもしれない。 上には上がある。測量部員が真に人跡未・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
出典:青空文庫