・・・そしてしば/\、真実の隠蔽のためにその文句が繰りかえされる。これが文学の基調をなすとき、視野の狭さと、一面性と、必要以上のこじつけのため、著しくその芸術的価値を減殺する。「肉弾」は小説ではない。記録的なものである。日露戦争に弾丸の下に曝・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・の美名に依って、卑猥感を隠蔽せんとたくらんでいるのではなかろうかとさえ思われるのである。「愛」は困難な事業である。それは、「神」にのみ特有の感情かも知れない。人間が人間を「愛する」というのは、なみなみならぬ事である。容易なわざではないの・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・清長型、国貞型、ガルボ型、ディートリヒ型、入江型、夏川型等いろいろさまざまな日本婦人に可能な容貌の類型の標本を見学するには、こうした一様なユニフォームを着けた、そうしてまだ粉飾や媚態によって自然を隠蔽しない生地の相貌の収集され展観されている・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・色彩と第三の空間次元を取り去ったスクリーンの上の平面影像は、事象により多くの客観性を付与し、そのおかげで、現場では隠蔽されるような認識能力の活動を可能にするからである。 広い意味でのニュース映画によって、人間は全く新しい認識の器官を獲た・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・某の事物には各其特有の形状備りあれば、某の意も之が為に隠蔽せらるる所ありて明白に見われがたし。之を譬うるに張三も人なり、李四も亦人なり。人に二なければ差別あるべき筈なし。然るに此二人のものを見て我感ずる所に差別あるは何ぞや。人の意尽く張三に・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
出典:青空文庫