・・・ 作者は、過去のブルジョア作家連が、その身辺雑記や折々の写真やらで示す所謂「作家生活」というものを自身の生活にもあてはめようと思い、一面には、そういう作家生活なしに作品はかけぬという激しい不安に捕われたかのようにも想像される。 この・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・「雛菊寮雑記」――若い婦人車掌だけの寮雛菊寮に暮す佳子、美代、文江、喜久枝たちが笠井重吉という学校出の運転手をかこむ女車掌らしい感情のいきさつを描いている。奔放で傍若無人な美代子が婦人部長としてはがっちり働いてゆきつつ重吉に対する佳子の・・・ 宮本百合子 「『労働戦線』小説選後評」
・・・しかもその箱の半以上を、茶褐色の背革の大きい本三冊が占めていて、跡は小さい本と雑記帳とで填まっている。三冊の大きい本は極新しい。薄暗い箱から、背革に記してある金字が光を放っている。私は首を屈めて金字を読もうとした。「Meyer の小です・・・ 森鴎外 「二人の友」
『青丘雑記』は安倍能成氏が最近六年間に書いた随筆の集である。朝鮮、満州、シナの風物記と、数人の故人の追憶記及び友人への消息とから成っている。今これをまとめて読んでみると、まず第一に著者の文章の円熟に打たれる。文章の極致は、透明無色なガラ・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
出典:青空文庫