・・・これと似た問題としては電気扇の振動や雑音をなくする方法の発明もある。これらのバランシングに関する各種多様の研究は皆三菱研究所で行ったものである。また器械の廻転軸の捻れを直接光学的に読み取るトーションメーターの考案も最も巧妙なものとして帝国学・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・音の性質から考えればこれは雑音の不規則な集合で、音楽的の価値などは無論無いものである。しかしあるいはこれは聴感に対する音楽に対立させうべき触感あるいは筋肉感に関する楽音のようなものではあるまいか。音自身よりはむしろ音から連想する触感に一種の・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ この器械はいわゆる無ラッパの小形のもので、音が弱くて騒がしい事はなかったが、音色の再現という点からはあまり完全とは思われず、それに何かものを摩擦するような雑音がかなり混じていて耳ざわりであった。それにもかかわらず私の心はその時不思議に・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・完全和絃ばかりから構成されたものは音楽とはなり得ないように絵画でも幾多の不協和音や雑音に相当する要素がなければ深い面白味は生じ得ないではあるまいか。特に南画においてそういう必要があるのではあるまいか。然るに近代の多数の南画家の展覧会などに出・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ともかくもこのゴロゴロは人間などが食欲の満足に対する予想から発する一種の咽喉の雑音などとは本質的にも違ったものらしく思われる。 この音は私にいろいろな音を連想させる。海の中にもぐった時に聞こえる波打ちぎわの砂利の相摩する音や、火山の火口・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ただあまりに静かな時に自分の頭の中に聞こえる不思議な雑音や、枕に押しつけた耳に響く律動的なザックザックと物をきざむような脈管の血液の音が、注意すればするほど異常に大きく強く響いてくる。しかしそれはじきに忘れてしまって世界はもとの悠久な静寂に・・・ 寺田寅彦 「病院の夜明けの物音」
・・・黒板へ書いている数式が間違ったりすると学生が靴底でしゃりしゃりと床をこするので教場内に不思議な雑音が湧き上がる。すると先生は「ア、違いましたか」と云って少しまごつく。学生の一人が何か云う。「御免なさい」と云ってそれを修正する。その先生の態度・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・満州問題、五・一五事件、バラバラ・ミステリーなどの騒然たる雑音はわれわれの耳を聾していたのである。ところが十一月になってスクリューを失った一艘の薄ぎたない船が漁船に引かれて横浜へ入港した。船の名はシビリアコフ号、これがソビエト政府の北氷洋学・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・それは雑音の中に含まれるいろいろな波長の音波が、それぞれ回折や分散の模様のちがうために起こる現象である。 トーキーの場合には、実際の音の音色は決してそのままに記録され複製されない。それは録音ならびに発音器械の不完全から来る欠点である。そ・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・ もしまた、いろいろな自然の雑音を忠実に記録し放送することができる日が来れば、ほんとうに芸術的な音的モンタージュが編成されうるであろうが、現在のような不完全な機械で、擬音のほうがかえって実際に近く聞こえるような状態では到底理想的なものは・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
出典:青空文庫