・・・一体に朱赤色や濃黄色といったような熱色の花には単調な色彩が多くて紫青色がかったものや紅でも紫がかったものにはこうした色のかがよいとでもいったものがあるらしい。柱作りに適するローヤル・スカーレットという薔薇がある。濃紅色の花を群生させるが、少・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 朝顔の色を見て、それから金山から出る緑砂紺砂の色、銅板の表面の色などの事を綜合して「誠に青色は日輪の空気なる色なるを知る」などと帰納を試みたりしているのもちょっと面白かった。 新しもの好き、珍しいもの好きで、そしてそれを得るために・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 長さ数センチメートルの長い火花を写真レンズで郭大した像をすりガラスのスクリーンに映じ、その像を濃青色の濾光板を通して、暗黒にならされた目で注視すると、ある場合には光が火花の道に沿うて一方から他方へ流れるように見える。しかし実際はこの火・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・なるほどやっぱり陳氏だ、お経にある青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光をやったんだなと、私はつくづく感心してそれを見上げました。全くその蓮華のはなびらは、ニュウファウンドランド島、ヒルテイ村ビジテリアン大祭の、新鮮な朝のそらを、かすかに光・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・一行が降り立ったら、薄青色の制服をつけた二人のフランス兵がランターンを手に下げて来て案内した。 秋の黄昏に廃趾の番をしていた兵士たちの肩のあたりが淋しそうである。ショウモンの砲台にはヴェルダン司令部があった。 飲料の貯水池が砲台の奥・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
○床の間の上の長押に功七級金鵄勲章の金額のところはかくれるような工合に折った書類が 茶色の小さい木の椽に入ってかかっている、針金で。○大きい木の椽に、勲八等の青色桐葉章を与う証が入っている。「三万五千五百八十四号ヲ以・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・ ○黒の綿リンズの羽織に、青色のつむぎの着物を着て居る。 すっかりはげた頭の中途に五分位のはばでまっ白な髪の毛がはえて居る。写真で見たより倍も倍も活々した美くしい顔をして居る。〔欄外に〕 彼はどう云うときに、自分・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・然し、友よ、私は、只一部分丈に視野を画って、今は、青い時だ、俺はその青い中でも一番強い青色を持っているのだぞ、と云って誇る心掛にはなりたくないと思う。 青でもよい。赤でもよい。何でもよいのだ。只過ぎて行く瞬間の呼声に、くらまされなければ・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
・・・境内の杉の木立ちに限られて、鈍い青色をしている空の下、円形の石の井筒の上に笠のように垂れかかっている葉桜の上の方に、二羽の鷹が輪をかいて飛んでいたのである。人々が不思議がって見ているうちに、二羽が尾と嘴と触れるようにあとさきに続いて、さっと・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・湯の青色と女の体、女の体と髪の黒色、あるいは処々に散らばる赤、窓外の緑と檜の色、などの対照も、きわめて快い調和を見せている。濃淡の具合も申しぶんがない。――しかし難を言えば、どうも湯の色が冷たい。透明を示すため横線を並べた湯の描き方も、滑ら・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫