・・・すれ違う連中の八分通りはトルコ帽をかぶったペルシア人、韃靼人である。耳の長い驢馬がふりわけに籠をつけて、小さい蹄に石ころ道を踏んで行く。バクーの市街の古い部分は五、六世紀頃から存在しているのである。 大通りを行きつめたら、自然とカスピ海・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ イン・ツルゲーネフは、韃靼出の古い貴族の息子として一八一八年アリョール県の所有地で生れた。一八八三年、六十五歳の時脊髄癌を病ってパリで死ぬまで、ツルゲーネフは有名な農奴解放時代の前後、略三十年に亙るロシアの多難多彩な社会生活と歴史・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・眼玉の大きい韃靼の血の混った娘リディア・セイフリナはそのころは二十前後で、タシュケントやウラジ・カウカアズ、オレンブルグなどで舞台にたっていた。一八七五年生れのオリガ・フォルシュは絵画学校を出て、既に文学作品を発表している。そして鉄道に関係・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・ 祖父の家には、荷馬車屋、韃靼人の従卒、軍人と、お喋りで陽気なその細君などが間借りしていて、中庭では年じゅう叫ぶ声、笑う声、駈ける足音が絶えないのであったが、台所の隣りに、窓の二つついた細長い部屋があった。その部屋を借りているのは、痩せ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・荷馬車屋、韃靼人の従卒、軍人とジャム壺をもって歩いてふるまいながらおしゃべりをすることのすきな陽気なその細君などという下宿人の顔ぶれの中で、この「結構さん」は何という変な目立つ存在であったことか。 ゴーリキイはだんだんこの「結構さん」と・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
トゥウェルスカヤの大通を左へ入る。かどの中央出版所にはトルキスタン文字の出版広告がはりだされ、午後は、飾窓に通行人がたかって人間と猫の内臓模型をあかず眺める。緑色の円い韃靼帽をかぶった辻待ち橇の馭者が、その人だかりを白髯の・・・ 宮本百合子 「モスクワ印象記」
出典:青空文庫