・・・そして、判り切ったことを楯にものを言えば、颯爽としているというのが、作家であり同時に評論家であることのむつかしさになるのだと、僕は思う。だから、僕もひとのことを言うのはよそう。 僕は読売新聞に連載をはじめてから秋声の「縮図」を読んだ・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・ 棟方志功氏の姿は、東京で時折、見かけますが、あんまり颯爽と歩いているので、私はいつでも知らぬ振りをしています。けれども、あの頃の志功氏の画は、なかなか佳かったと思っています。もう、二十年ちかく昔の話になりました。豊田様のお家の、あの画・・・ 太宰治 「青森」
・・・五十を越えたあなたのほうが、三十八歳の私よりも、ずっと若くて颯爽としているという事実は、私にとって、たしかに驚異でありました。あなたと私のこんな違いは、お金持と貧乏人という生活の懸隔から起ったのでは無く、あなたが之まで幾十度と無く重大の命の・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・どもってばかりいて、颯爽たる断案が何一つ、出て来ない。私とて、恥を知る男子である。ままになる事なら、その下手くその作品を破り捨て、飄然どこか山の中にでも雲隠れしたいものだ、と思うのである。けれども、小心卑屈の私には、それが出来ない。きょう、・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・白麻のハンチング、赤皮の短靴、口をきゅっと引きしめて颯爽と歩き出した。あまりに典雅で、滑稽であった。からかってみたくなった。私は、当時退屈し切っていたのである。「おい、おい、滝谷君。」トランクの名札に滝谷と書かれて在ったから、そう呼んだ・・・ 太宰治 「座興に非ず」
・・・それから、この縁側に腰を掛けて、眼をショボショボさせている写真、これも甲府に住んでいた頃の写真ですが、颯爽としたところも無ければ、癇癖らしい様子もなく、かぼちゃのように無神経ですね。三日も洗面しないような顔ですね。醜悪な感じさえあります。で・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・女房をぶん殴って颯爽と家を出たところまではよかったが、試験に落第して帰ったのでは、どんなに強く女房に罵倒せられるかわからない。ああ、いっそ死にたい」と極度の疲労のため精神朦朧となり、君子の道を学んだ者にも似合わず、しきりに世を呪い、わが身の・・・ 太宰治 「竹青」
・・・ あの颯爽たる雄姿、動作の俊敏、天才的の予言!」などという馬鹿な事になるようですが、私はそのヒットラーの写真を拝見しても、全くの無教養、ほとんどまるで床屋の看板の如く、仁丹の広告の如く、われとわが足音を高くする目的のために長靴の踵にこっそり・・・ 太宰治 「返事」
・・・ そんなことを考えながら、T君の山男のような蓬髪としわくちゃによごれやつれた開襟シャツの勇ましいいで立ちを、スマートな近代的ハイカーの颯爽たる風姿と思い比べているうちに、いつか快い眠りに落ちて行ったことであった。・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・とその手法では再現されきれない社会の現実とその心理があることをいら立たしく意識しているのに――肉体派小説、中間小説の商品性に対してはおのずから批判が感じられているのに――さて、それならば爪先をそろえて颯爽と、どのようなより社会的な創作の方向・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
出典:青空文庫