・・・ 祖父は倒産した家を始末する時、祖母の分としては、家じゅうの小鉢と壺と食器とをやっただけであった。年より夫婦は茶から、砂糖から、聖像の前につける燈明油まで、胸がわるくなるほどきっちり半分ずつ出しあって暮しはじめた。その出し前について、い・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・が、祖父は財産分配の時、祖母に家じゅうの小鉢と壺と食器とを分けただけなのである。祖母は昔ならったレース編を再びやり出した。ゴーリキイも、「銭を稼ぎはじめた。」 休日ごとにゴーリキイは袋をもって家々の中庭の通りを歩き、牛の骨、ぼろ、古釘な・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・唯今では厨で僧どもの食器を洗わせております」「はあ」と言って、閭は二足三足歩いてから問うた。「それから唯今寒山とおっしゃったが、それはどういう方ですか」「寒山でございますか。これは当寺から西の方の寒巌と申す石窟に住んでおりますもので・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・ただに食器に散り蓮華があるのみでない。蓮根は日本人の食う野菜のうちのかなりに多い部分を占めている。 というようなことは、私はかねがね承知していたのであるが、しかし巨椋池のまん中で、咲きそろっている蓮の花をながめたときには、私は心の底から・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫