・・・もう炎天と飢渇の為に人にも鳥にも、親兄弟の見さかいなく、この世からなる餓鬼道じゃ。その時疾翔大力は、まだ力ない雀でござらしゃったなれど、つくづくこれをご覧じて、世の浅間しさはかなさに、泪をながしていらしゃれた。中にもその家の親子二人、子はま・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・外見だけのこととしていいくるめきれない女性歴代の情感の飢渇が、哀れな傷をそこに見せているのである。 日本の女性が、両性の友情の間で紛糾を生じがちなのは、我知らずそこに、自分たち日常の現実にあらわれている関係のきまった男との間に在るいきさ・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・その心情的な飢渇がいやされなければ、頭脳的にわかったといっても、若い命を傾けつくして生きてゆきにくい。そういう声があるのである。 さらに、複雑な一群の人々の場合がある。今日、自分たちが麗わしい精神の純朴さで歴史の発展的面に従いきれないの・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・あんな事実の切れ端を盛ったものでさえ、今の私たちが世界の実情を知りたいと思っている心の飢渇に対しては、何ものかであるかのように思えた、それほど私たちは何も知らない状態におかれているのだという今日の現実は、その場合全く考えられていないのである・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・これらの本は、文学では生産文学、素材主義の文学が現れて生活の実感のとぼしさで人々の心に飢渇を感じさせはじめた時、玄人のこしらえものよりも、素人の真実な生活からの記録がほしいという気持から、女子供の文章の真率の美がやや感傷的に評価されはじめた・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・同じ紙面に他の数人の見解もあわせのせられていて、他の人々の意見は、事変以来為政者が娯楽というもの一般について罪悪視して来たために、人心が飢渇していて、ああいう事も起ったのではないのかという点で、一致した反省を求めているのであった。 二月・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・ ところどころ、それとなく拾い読みをしては私は激しい読書の飢渇を医やしたのであったが、そのような条件の中で偶然私の視野に入って来たこの小さい一冊の書翰集は二様、三様の感想をそのときの私の心に呼び起した。 その本の出版されていることを・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・そのために、近頃では益々、文学とは何であろうかという心持が目醒まされ、文学らしい文学に対する飢渇の感覚が一般にひろまって来た。ところで、昨今感じられているその飢渇感には、僅か二、三年前には知られなかった生活的な諸経験がたたみこまれているから・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
出典:青空文庫