・・・来るものも一生奉公の気なら、島屋でも飼殺しのつもり、それが年寄でも不具でもございません。 と異な声で、破風口から食好みを遊ばすので、十八になるのを伴れて参りました、一番目の嫁様は来た晩から呻いて、泣煩うて貴方、三月日には痩衰えて死ん・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ですから、客の方で約束は違えないんですが、一生飼殺し、といった様子でしょう。 旅行はどうしてしたでしょう。鹿落の方角です、察しられますわ。霜月でした――夜汽車はすいていますし、突伏してでもいれば、誰にも顔は見られませんの。 温泉宿で・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・生ぬるい自由なんて、飼い殺しと同じだ。何も出来やしないじゃないか。卑屈になるばかりだ。銃後はややこしくて、むずかしいねえ。」「何を言ってやがる。君は、一ばん骨の折れるところから、のがれようとしているだけなんだ。千の主張よりも、一つの忍耐・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・五十人の研究の中でただの一つでも有利な結果が飛び出せば、それから得られる利益で、学者の五十人くらい一生飼い殺しにしても、なお多大の収益があるからとのことであった。戦後の世智辛さではどうなったかそれは知らない。とにかく日本などでは、まだなかな・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・ 独立する資力がないばっかりに、地主の思うがままにみじめな生活をさせられて子供の教育も出来ず、二度とない一生を地主に操られて、働きへらして飼殺し同様にさせられて仕舞う。 小作をしないで暮すと云う事は農民皆が皆の希望だろうけれ共、地主・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫