・・・ていたものだから、私の発展させていくべき仕事の緒口をここに定めておくつもりであり、また私たち兄弟の中に、不幸に遭遇して身動きのできなくなったものができたら、この農場にころがり込むことによって、とにかく餓死だけは免れることができようとの、親の・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ このような状態が続けば、私はいたずらに長い髪の毛を抱いて餓死するところであった。が、天は私の長髪をあわれんだのか、やがて私を作家の仲間に入れてくれた。私の原稿は売れる時もあり売れぬ時もあったが、しかしそれは私の長髪とは関係がなかった。・・・ 織田作之助 「髪」
・・・やっと売れたが、この金使ってしまっては餓死か凍死だと、まず阪急の切符売場で宝塚行き九十銭の切符五枚買った。夕方四時半から六時半まで切符は売止めになる。その時刻をねらって、売場の前にずらりと並んだ客に、宝塚行き一枚三円々々と触れて歩くと、すぐ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・又餓死をした人の話が出ていたが、その人は水を飲でいたばかりに永く死切れなかったという。 それが如何した? 此上五六日生延びてそれが何になる? 味方は居ず、敵は遁げた、近くに往来はなしとすれば、これは如何でも死ぬに極っている。三日で済む苦・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・殊に、現在の、深刻な農業恐慌の下で、負担のやり場を両肩におッかぶせられて餓死しないのがむしろ不思議な農民の生活、合法無産政党を以て労農提携の問題をごま化し去ろうとする社会民主主義者共の偽まんを突破して真に階級性を持った提携に向って進んでいる・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・彼らは、餓死する。凍死もする。溺死する。焚死する。震死する。轢死する。工場の機械にまきこまれて死ぬる。鉱坑のガスで窒息して死ぬる。私欲のために謀殺される。窮迫のために自殺する。今の人間の命の火は、油がつきて滅するのでなくて、みな烈風に吹き消・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・過度の労働や、汚穢なる住居や、有毒なる空気や、激甚なる寒暑や、扨は精神過多等の不自然なる原因から誘致した病気の為めに、其天寿の半にだも達せずして紛々として死に失せるのである、独り病気のみでない、彼等は餓死もする、凍死もする、溺死する、焚死す・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・なかったら、仙台には二、三の知人もいるし、途中下車して、何とか頼んで見る事も出来るでしょうが、ご存じの如く、仙台市は既に大半焼けてしまっているようでしたから、それもかなわず、ええ、もう、この下の子は、餓死にきまった。自分も三十七まで生きて来・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・竹林の七賢人も藪から出て来て、あやうく餓死をのがれん有様、佳き哉、自ら称していう。「われは花にして、花作り。われ未だころあいを知らず。Alles oder Nichts.」 またいう。「策略の花、可也。修辞の花、可也。沈黙の花、可也。理・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・また仁明天皇の御代に僧真済が唐に渡る航海中に船が難破し、やっと筏に駕して漂流二十三日、同乗者三十余人ことごとく餓死し真済と弟子の真然とたった二人だけ助かったという記事がある。これも颱風らしい。こうした実例から見ても分るように遣唐使の往復は全・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
出典:青空文庫