・・・年じゅう同じように貯蔵した馬鈴薯や玉ねぎをかじり、干物塩物や、季節にかまわず豚や牛ばかり食っている西洋人やシナ人、あるいはほとんど年じゅう同じような果実を食っている熱帯の住民と、「はしり」を喜び「しゅん」を貴ぶ日本人とはこうした点でもかなり・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・借りたものは巴里だって返す習慣なのだから、いかな見え坊の細君もここに至って翻然節を折って、台所へ自身出張して、飯も焚いたり、水仕事もしたり、霜焼をこしらえたり、馬鈴薯を食ったりして、何年かの後ようやく負債だけは皆済したが、同時に下女から発達・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・高等商業の標本室も見てきた。馬鈴薯からできるもの百五、六十種の標本が面白かった。この公園も丘になっている。白樺がたくさんある。まっ青な小樽湾が一目だ。軍艦が入っているので海軍には旗も立っている。時間があれば見せるのだがと武田先生が云った・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・また望遠鏡でよくみると、大きなのや小さなのがあって馬鈴薯のようです。 しかしだんだん夕方になりました。 雲がやっと少し上の方にのぼりましたので、とにかく烏の飛ぶくらいのすき間ができました。 そこで大監督が息を切らして号令を掛けま・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
普通中学校などに備え付けてある顕微鏡は、拡大度が六百倍乃至八百倍ぐらいまでですから、蝶の翅の鱗片や馬鈴薯の澱粉粒などは実にはっきり見えますが、割合に小さな細菌などはよくわかりません。千倍ぐらいになりますと、下のレンズの直径が・・・ 宮沢賢治 「手紙 三」
・・・いよいよ今日は歩いてもだめだと学士はあきらめてぴたっと岩に立ちどまりしばらく黒い海面と向うに浮ぶ腐った馬鈴薯のような雲を眺めていたが、又ポケットから煙草を出して火をつけた。それからくるっと振り向いて陸の方・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 諸君がどんなに頑張って、馬鈴薯とキャベジ、メリケン粉ぐらいを食っていようと、海岸ではあんまりたくさん魚がとれて困る。折角死んでも、それを食べて呉れる人もなし、可哀そうに、魚はみんなシャベルで釜になげ込まれ、煮えるとすくわれて、締木にか・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・「いつだろうなあ、早く見たいなあ。」「僕は見たくないよ。」「早いといいなあ、囲って置いた葱だって、あんまり永いと凍っちまう。」「馬鈴薯もしまってあるだろう。」「しまってあるよ。三斗しまってある。とても僕たちだけで食べられ・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ 今私たちはパンも馬鈴薯もさつまいもも買えずにいるから、米を副食としてときくと、では主食品はどんな風に手に入れられるのだろうという、ぼんやりした当惑も感じるのである。 昔ながらの意味で米に執着する習慣は、この頃の現実で次第に変って来・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
・・・ロンドンの生活でパンと馬鈴薯の食事は家族の健康を衰えさせるばかりであった。イエニーは病気になった。小イエニーも悪い。丈夫なレンシェンも熱を出しはじめている。カールは図書館へ新聞をよみに行く金のない時さえあった。その時は、トリビューン紙への論・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
出典:青空文庫