・・・ 彼れは、小屋のかげから着剣した銃を持って踊りでた。 若者は立止った。そして、「何でがすか? タワリシチ!」 馴れ馴れしい言葉をかけた。倶楽部で顔見知りの男が二人いた。中国人労働組合の男だ。「や!」 ワーシカは、ひょ・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ひどく、馴れ馴れしい口調である。 いや、なんともありません、と私は流石にてれくさく、嗄れた声で不気嫌に答えた。「これ、幸吉さんの妹さんから。」百合の花束を差し出した。「なんですか、それは。」私は、その三、四輪の白い花を、ぼんやり・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・家へ帰りつくまでには、背後の犬もどこかへ雲散霧消しているのが、これまでの、しきたりであったのだが、その日に限って、ひどく執拗で馴れ馴れしいのが一匹いた。真黒の、見るかげもない小犬である。ずいぶん小さい。胴の長さ五寸の感じである。けれども、小・・・ 太宰治 「畜犬談」
出典:青空文庫