・・・あきらかに駄句である。猿簑の凡兆の句には一つの駄句もない、すべて佳句である、と言っている人もあるが、そんな事は無い。やっぱり、駄句のほうが多い。佳句が、そんなに多かったら、芭蕉も凡兆の弟子になったであろう。芭蕉だって、名句が十あるかどうか、・・・ 太宰治 「天狗」
・・・ はなはだ拙劣でしかも連句の格式を全然無視したものではあるがただエキスペリメントの一つとして試みにここに若干の駄句を連ねてみる。草を吹く風の果てなり雲の峰 娘十八向日葵の宿死んで行く人の片頬に残る笑 秋の実りは豊・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
持てあます西瓜ひとつやひとり者 これはわたくしの駄句である。郊外に隠棲している友人が或年の夏小包郵便に托して大きな西瓜を一個饋ってくれたことがあった。その仕末にこまって、わたくしはこれを眺めながら覚えず口ずさんだのである。・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ 沓の代はたられて百舌鳥の声悲し 馬の尾をたばねてくゝる薄かな 菅笠のそろふて動く芒かな 駄句積もるほどに峠までは来りたり。前面忽ち見る海水盆の如く大島初島皆手の届くばかりに近く朝霧の晴間より一握りほどの小岩さえ・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
出典:青空文庫