・・・僕は花田に教えられたとおり、自分の画なんかなんでもないが、昨日死んだ仲間の画は実に大したものだ、もしそれが世間に出たら、一世を驚かすだろうと、一生懸命になって吹聴したんだ。いかもの食いの名人だけあって堂脇の奴すぐ乗り気になった。僕は九頭竜の・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・仕事に表わす精力は、我々子供たちを驚かすことがしばしばあったくらいである。芸術に対しては特に没頭したものがなかったので、鑑識力も発達してはいなかったが、見当違いの批評などをする時でも、父その人でなければ言われないような表現や言葉使いをした。・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・以前はこれが一面の目を驚かすものだったが、何の年かの大地震に、坤軸を覆して、左右へ裂けたのだそうである。 またこの石を、城下のものは一口に呼んで巨石とも言う。 石の左右に、この松並木の中にも、形の丈の最も勝れた松が二株あって、海に寄・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・妙齢の娘でも見えようものなら、白昼といえども、それは崩れた土塀から影を顕わしたと、人を驚かすであろう。 その癖、妙な事は、いま頃の日の暮方は、その名所の山へ、絡繹として、花見、遊山に出掛けるのが、この前通りの、優しい大川の小橋を渡って、・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・「そら御覧な、目を覚ましたわね、人を驚かすもんだから、」 と片頬に莞爾、ちょいと睨んで、「あいよ、あいよ、」「やあ、目を覚したら密と見べい。おらが、いろッて泣かしちゃ、仕事の邪魔するだから、先刻から辛抱してただ。」と、かごと・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ 御存じの通り、稲塚、稲田、粟黍の実る時は、平家の大軍を走らした水鳥ほどの羽音を立てて、畷行き、畔行くものを驚かす、夥多しい群団をなす。鳴子も引板も、半ば――これがための備だと思う。むかしのもの語にも、年月の経る間には、おなじ背戸に、孫も彦・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・すわと言えば、追い立つるとも、驚かすとも、その場合のこととして……第一、気もそぞろなことは、二度まで湯殿の湯の音は、いずれの隙間からか雪とともに、鷺が起ち込んで浴みしたろう、とそうさえ思ったほどであった。 そのままじっと覗いていると、薄・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
書かれている事件が人を驚かすのでない。そのことは、ちょうど私達が活動写真を見るようなものであります。奇怪な事件が重なり合っているような場合であっても見ている時は成程、其れによって、いろ/\なことを想像したりまた感興を惹かれたりしても、・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・ 自分はいかなることにも驚かぬが、つねに人を驚かすことが、この豹吉の信条なのだ。 きっとあたりを見廻して、そして二、三度あくびをすると豹吉はやがてどこをどう抜けたか、固く扉を閉した筈の会館の中から、するりと抜け出すことに成功した。・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・ 浴室では神崎、朝田の二人が、今夜の討論会は大友が加わるので一倍、春子さんを驚かすだろうと語り合って楽しんで居る。二 箱根細工の店では大友が種々の談話の末、やっとお正の事に及んで「それじゃア此二月に嫁入したのだね、随・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
出典:青空文庫