・・・ と驚くばかりである。 といって、いたずらに驚いておれば、もはや今日の大阪の闇市場を語る資格がない。 一個百二十円の栗饅頭を売っている大阪の闇市場だ。十二円にしてはやすすぎると思って、買おうとしたら、一個百二十円だときかされて、・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・ 耳の敏い事は驚く程で、手紙や号外のはいった音は直ぐ聞きつけて取って呉れとか、広告がはいってもソレ手紙と云う調子です。兎に角お友達から来る手紙を待ちに待った様子で有りました。こんな訳で、内証言は一つも言えませんから、私は医師の宅まで出か・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・田舎には珍しいダリヤや薔薇だと思って眺めている人は、そこへこの家の娘が顔を出せばもう一度驚くにちがいない。グレートヘンである。評判の美人である。彼女は前庭の日なたで繭をにながら、実際グレートヘンのように糸繰車を廻していることがある。そうかと・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・へは退かぬご気性なるが上に孫かあいさのあまり平生はさまで信仰したまわぬ今の医師及び産婆の注意の一から十まで真っ正直に受けたもうて、それはそれは寝るから起きるから乳を飲ます時間から何やかと用意周到のほど驚くばかりに候、さらに驚くべきは小生が妻・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・ 帰って、──いつも家へ着くのは晩だが、その翌朝、先ず第一に驚くことは、朝起きるのが早いことである。五時頃、まだ戸外は暗いのに、もう起きている。幼い妹なども起される。──麦飯の温いやつが出来ているのだ。僕も皆について起きる。そうすると、・・・ 黒島伝治 「小豆島」
・・・それは鼎のことであるからけだし当時宮庭へでも納めたものであったろう、精中の精、美中の美で、実に驚くべき神品であった。はじめ明の成化弘治の頃、朱陽の孫氏が曲水山房に蔵していた。曲水山房主人孫氏は大富豪で、そして風雅人鑑賞家として知られた孫七峯・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・がんとするお霜を尻目にかけて俊雄はそこを立ち出で供待ちに欠伸にもまた節奏ありと研究中の金太を先へ帰らせおのれは顔を知られぬ橋手前の菊菱おあいにくでござりまするという雪江を二時が三時でもと待ち受けアラと驚く縁の附際こちらからのように憑せた首尾・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
子供らは古い時計のかかった茶の間に集まって、そこにある柱のそばへ各自の背丈を比べに行った。次郎の背の高くなったのにも驚く。家じゅうで、いちばん高い、あの子の頭はもう一寸四分ぐらいで鴨居にまで届きそうに見える。毎年の暮れに、・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・其処で、彼女は仕方なく天地をお創りになった神に向い、どうか、此世にない程の力を授けて下さるように、驚くべき奇蹟で、プラタプに「や! 此がお前に出来ようとは思わなかった」と、喫驚、叫ばせてやることが出来ますように、と祈るのでした。・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・「驚いてはいけねえ、とは言っても、いや、誰だって驚くに違いないが、実はな、さきほど警察の署長さんが、おれの家へおいでになって、」と私は、駈引きも小細工も何もせず、署長から言われた事をそのまま伝えて、「のう、圭吾も心得違いしたものだが、し・・・ 太宰治 「嘘」
出典:青空文庫