・・・どうにかしてこの古び果てた習慣の圧力から脱がれて、驚異の念を以てこの宇宙に俯仰介立したいのです。その結果がビフテキ主義となろうが、馬鈴薯主義となろうが、将た厭世の徒となってこの生命を咀うが、決して頓着しない!「結果は頓着しません、源因を・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・それとともに、彼の立宗以来五十三歳までの、二十二年間の獅子王のごとき奮闘がいかにかかるやさしく、美しき心情から発し得たかに、驚異の念を持たざるを得ないのである。実に優にやさしき者が純熱一すじによって、火焔の如く、瀑布の如く猛烈たり得る活ける・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・古代の人が驚異したのに無理はないが、今日はバッチェット方法、ポイグナード方法、その他の方法を知れば、随分大きな魔方陣でも列べ得ること容易である。しかし魔方陣のことを談るだけでも、支那印度の古より、その歴史その影響、今日の数学的解釈及び方法ま・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・五十を越えたあなたのほうが、三十八歳の私よりも、ずっと若くて颯爽としているという事実は、私にとって、たしかに驚異でありました。あなたと私のこんな違いは、お金持と貧乏人という生活の懸隔から起ったのでは無く、あなたが之まで幾十度と無く重大の命の・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・校にはいっていたとき、この文句を英文法の教科書のなかに見つけて心をさわがせ、そしてこの文句はまた、僕が中学五年間を通じて受けた教育のうちでいまだに忘れられぬ唯一の智識なのであるが、訪れるたびごとに何か驚異と感慨をあらたにしてくれる青扇と、こ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・』などと辛辣な一矢を放っているあたり、たしかに貴下の驚異的な進歩だと思いました。私のあの覆面の手紙が、ただちに貴下の製作慾をかき起したという事は、私にとってもよろこばしい事でした。女性の一支持が、作家をかく迄も、いちじるしく奮起させるとは、・・・ 太宰治 「恥」
・・・そして人々はあたかも急に天から異人が降って来たかのように驚異の眼を彼の身辺に集注した。 彼の理論、ことに重力に関する新しい理論の実験的証左は、それがいずれも極めて機微なものであるだけにまだ極度まで完全に確定されたとは云われないかもしれな・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・こんな幼稚なものでも当時の子供に与えた驚異の感じは、おそらくはラジオやトーキーが現代の少年に与えるものよりもあるいはむしろ数等大きかったであろう。一から見た十は十倍であるが、百から見た同じ十はわずかに十分の一だからである。今の子供はあまりに・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・あらゆる映画の驚異はここに根ざしこの虚につけ込むものである。従って未来の映画のあらゆる可能性もまたこの根本的な差違の分析によって検討されるであろうと思う。 それにはまず物理的力学的な世界像を構成する要素が映画の上にいかなる形で代表されて・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・ 大阪の町でも、私は最初来たときの驚異が、しばらく見ている間に、いつとなしにしだいに裏切られてゆくのを感じた。経済的には膨脹していても、真の生活意識はここでは、京都の固定的なそれとはまた異った意味で、頽廃しつつあるのではないかとさえ疑わ・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
出典:青空文庫