・・・車の上には慎太郎が、高等学校の夏服に白い筋の制帽をかぶったまま、膝に挟んだトランクを骨太な両手に抑えていた。「やあ。」 兄は眉一つ動かさずに、洋一の顔を見下した。「お母さんはどうした?」 洋一は兄を見上ながら、体中の血が生き・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・とごま白の乱髪に骨太の指を熊手形にさしこんで手荒くかいた。 石井翁は綿服ながら小ザッパリした衣装に引きかえて、この老人河田翁は柳原仕込みの荒いスコッチの古洋服を着て、パクパク靴をはいている。「でも何かしておられるだろう。」と石井翁は・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・体格は骨太の頑丈な作り、その顔は眼ジリ長く切れ、鼻高く一見して堂々たる容貌、気象も武人気質で、容易に物に屈しない。であるからもし武人のままで押通したならば、すくなくとも藩閥の力で今日は人にも知られた将軍になっていたかもしれない。が、彼は維新・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・「やせていらっしゃるんですねえ、 でも骨太だからやっぱり女とは違いますねえ、 目方なんか軽くっていらっしゃるんでしょう。」 自分の肉つきの好い丸っこい肩に両手を互え違えにして体を左右にゆりながら千世子は云ったりした。 女・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・体も骨太に思い切って大きく眼の大きい眉の太い弟の方は兄より見かけが良い。兄よりは熱のある顔つきをして居るけれ共深い事は知らない。 荷馬車の轍の深い溝のついて居る田舎道を下り気味に真直に行って茨垣の中に小さく開いて居る裏門から入って行く。・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫