・・・成金に過ぎないようだけれども、とにかく、お金があって、東京に生れて、東京に育ち、道楽者、いや、少し不良じみて、骨組頑丈、顔が大きく眉が太く、自身で裸になって角力をとり、その力の強さがまた自慢らしく、何でも勝ちゃいいんだとうそぶき、「不快に思・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・屋根が軽くて骨組の丈夫な家は土台の上を横に辷り出していた。そうした損害の最もひどい部分が細長い帯状になってしばらく続くのである。どの家もどの家もみんな同じように大体東向きに傾きまたずれているのを見ると揺れ方が簡単であった事が分る。関東地震な・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・しかし、せめて大新聞の記者だけでも、たとえ具体的の科学知識はもたずとも、一人の学者の科学的研究というものはたとえて言わば道ばたに落ちた財布を拾うたような簡単なものではなくてたとえばツェペリンの骨組みを作り上げるための一本一本のリベットにたん・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・のごときもその最初の骨組みはフランスの一貴族学者ド・ブローリーがすっかり組み立ててしまった。その「俳諧」の中に含まれた「さび」や「しおり」を白日の明るみに引きずり出してすみからすみまで注釈し敷衍することは曲斎的なるドイツ人の仕事であったので・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ほんとうに骨組みと要るとこだけやればいいんだから。あとは仕事がひとりでそれを教えるし、だんだんじぶんで読んで行けるから。」「ぼくらは冬にあの工場へ集ったりしていろいろこさえようじゃないか。ファゼーロが皮を染めたりするだろう、ぼくはへただ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 十二年をへだて、今日著者がたまに書く文学評論は、主題と表現の問題にしろよりリアルにとらえられていて、人民的な民主主義社会とその文学の達成のために、堅ろうな階級的骨組みとくさびとを与えている。 著者自身が一九二九年に「過渡期」として・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・そこに、一八一八年五月五日、一人の骨組のしっかりした男の子が産れ、カールと名付けられた。 マルクス家はユダヤ系であった。けれどもトリエル市のすぐれた弁護士であったハインリッヒ・マルクス一家の生活はかなりゆとりの有るものであった。父マルク・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
斜向いの座席に、一人がっしりした骨組みの五十ばかりの農夫が居睡りをしていたが、宇都宮で目を醒した。ステイションの名を呼ぶ声や、乗客のざわめきで、眠りを醒されたという工合だ。窓の方を向いて窮屈に胡座をくんでいた脚を下駄の上に・・・ 宮本百合子 「北へ行く」
・・・各芸術部門の独自性、その創造力の土台の社会的・科学的な研究というものは、この巨大な可能性を包蔵している骨組みの細部として、もっと学ばれ、科学的に整理された現実的資料として提供されなければならないのではなかろうか。 これまでも、たとえばプ・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・白ペンキで塗られた軽い骨組みの高塔は深い青葉の梢と屋根屋根の上に聳えて印象的な眺めである。同じ窓から銀杏並木のある歩道の一部が見下せた。どういう加減かあっちへ行く人ばかり四五人通ってしまったら、往来がとだえ電車も通らない。不意と紺ぽい背広に・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫