・・・旧来の戦争は文化の面を外見上からも萎縮させたが、今日ではそれが近代性において高度化して、戦争とともに一部に成金が生じる現象は、文化の分野にも見られるようになった。永年の窮迫と不遇から時局によって世間的に一躍し、温泉へ行って忙しい忙しいと小説・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ 二十五年前の第一欧州戦争を、日本の一般社会は間接に小局限でしか経験しなかったから、今日の文学が経る波瀾は、極めて日本的な諸条件のうちで、しかも世界史的に高度で、経験が重大であるというばかりでなく、謂わばその重大さが初めてであるというこ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・を必要として「かつて軍隊が闘い得ず、政治家が思いも及ばざるイデオロギーの高度武装をせよ」と宣言している。そしてこの道徳高度武装内容をシューマン外相は、はっきり「経済分野にはマーシャル・プラン、政治・軍事の分野には北大西洋条約、この上に精神生・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・流転して止む事ない心の微妙な投影は、其を洞察しつつ、理解しつつ愛に満ちて統御する叡智の高度に準じて価値つけられますでしょう。認識の拡張は人類に冠を授けます。 然し認識の内容は多くの未知を、或は未完成の存在をも、今日の私共の裡に承認する筈・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・日本の資本主義の歴史的な弱さの上に、アメリカの文化の――いわゆる高度なる文化の――面だけをうつし植えようとすれば、現にこんにち日本代表として外国へ行ける人々が、三井一族その他の特権階級の者であるように、人民すべてのためのよりゆたかな、人間ら・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・建設的な精神の本来は極めて複雑高度な現実把握と実践との統一を意味するものであろうが、当時らしい概括で流布した建設的精神の解釈は、当面向けられた要求に向って一切の疑問を抱かぬように単純化された生活と精神との所謂真面目さという低度に止まっていた・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・、明治二十年末期の『文学界』のロマンティシズムがその踵をしっかりとつかまえられていた封建の力を、殆どそれなり背面にひっぱったまま大正末から昭和の十年間という時期をも経て、今日の、或る点から云えば極めて高度な近代の秩序に適応していてしかも本質・・・ 宮本百合子 「職業のふしぎ」
・・・夫婦愛より歴史性の古いと云われているその母性感情の故に、最も高度に錯綜した社会諸関係の辛苦にふれているという深刻な事実の裡にこそ、このバッハオーフェンの一巻が古典として存続し得る必然がかくされているというのは、意味深いことであると思う。・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・自身も工場農村に働いている連中だから、云わば学校と工場農村にある青年達の気質も生活様式の基礎的な部分でも一つのもので大した差別は無い、学校内の倶楽部ではさっき云った工場倶楽部内の文化活動が一そう活溌に高度に行われているという訳だ。・・・ 宮本百合子 「ソヴェト「劇場労働青年」」
・・・また、保田与重郎君の幻想と小宮豊隆氏の高度な知的ディレッタンティズムが肩と肩とを抱き合わせ得ないことも自明である。さらに長谷川如是閑氏が、文化の発展との関係において民衆のもつ自由と統制をどう見ているかということと、林房雄氏の日本観との間に或・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫