・・・民間の経済雑誌に、国際間の経済統計、生産指数などの発表されることを禁じた日本の軍部は、そうして世界の現実を人々の目からかくしたと同時に、非合理な戦争によって熱病のように混乱、高騰、崩壊する日本国内生産と経済事情を――人民生活の全面的な破壊の・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 今日の国家経済の方針に依って、文化の大衆化に重大な関係を持っている紙と印刷費用とは高騰する一方であるから、一時のように同人雑誌の刊行も困難になり、他面発表機関も困難になることから、雑誌を持っていてその誌上を割き与えることの出来る作家の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 歴史の或る時期に文化は本質に停頓しつつ、文学の購買力は高騰することがある。作家は、後者と自分の書く腕とを現象的に結びつけて、それを文学的な創作として自分にも云いきかせている危険はどこにもないと云えるだろうか。 今日の私たちにとって・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 戦時中、軍需生産のために膨脹した生産能力を、同じに近い利潤を生むように運転して行こうとする努力、その一方では、それと矛盾して見える物価の高騰をふせぎ、インフレーションのおこることをおさえ、賃銀の安定のために企業家が利潤低減のさけがたい・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・物価の高騰と歩調を合せないまでも、いく分ましの賃銀の条件になり、婦人は生理休暇ももてるようになった。 けれども、本当に自主的な自覚のある勤労者として、今の日本の、民主化とは皮肉悪辣に逆行している出版事情を観察した場合、働くものの鋭い見識・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・ こういう細かい生活の実況であるにもかかわらず、総体としてラジオが益々大勢にきかれるようになって来ることには、一方で、出版物の高騰、書籍購買力の低下と伴い、一方では確に放送局で着眼しているとおりニュース価値の増大にあるだろうと思う。・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・昭和十六年以来昂まって来ているインフレーションは、表面上の労働賃銀をぐんぐん上げて、その頃までは物価の昂騰と労働賃銀の増大とはほぼ釣り合いを保って上向きに来たのであった。けれども、この頃を境として生活費の膨脹は熱病患者の体温計のように止めよ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・二十五倍に物価は高騰した。これはマークの札束を鞄に入れて歩いて、街の乞食の小僧が「小父ちゃん一万マークお呉れよパンを買うんだから……」と言ったという一つ話が伝わっているドイツの大恐慌の七、八ヵ月以前の状態とほぼひとしい形を示している。最低二・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫