・・・ 創造の能力というものはもとより無から有を生じさせる魔力ではなく、必ず素材的な何かはすでにあるのだが、それの模写ではないし、ただのよせあつめの累積でもないし、ましてや、あのものとこのものとの置きかえではない。一と一とを足して二になるとい・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
ルネッサンスという時代が、人間理性の目ざめの時期でレオナルド・ダ・ヴィンチを産みながら一方では魔力が人間生活に直接関係するということをまだ信じていた野蛮な時代であったという事実を、はっきり会得しなければならないと思う。とく・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
・・・モスクワではあらゆるけちな労働者クラブにさえ満ち溢れるそれらのものを、唯一つの手ばたきでここに視角化する魔力は持たぬ。民衆宮とは日本よりの社会局役人をして垂涎せしむる石造建築と最初建造資金を寄附したミス・某々の良心的満足に向って捧げられてい・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・新しい発見者、魔力のよびさまして、としての責任感に目ざまされてもいるであろう。それらは皆自然である。そしてその人々の人間らしい親愛を感じさせる。だけれども、科学者の仕事を通じて、たとえば原子力を文明が脅威をうけるものとしたのは、「資本」であ・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・と、想像で計り知られるようなこと、実際これはこうなる、あれはああなると思うような何んでもない、簡単なことが渦巻き返して来ると、ルーレットの盤の停止点を見詰めるように、停るまでは動きが分らなくなるという魔力に人はかかってしまう。動くのと停るの・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・が、その謎めいて古い起源が我々には魔力的に感ぜられるのである。 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・ 微妙な線、こまやかな濃淡、魔力ある抑揚、秘めやかな諧調、そういう技巧においてもまた、私の生まれつきのうぬぼれは製作によって裏切られる。要するに私は要求と現実とを混同する夢想家に過ぎなかった。 こうして私は自分の才能に失望してかなり・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・この内部の力に対しては自分も非常な恐怖を抱いていながら、その魔力に抵抗することはできないのだ。これがデュウゼをして半狂のヒステリカルな女を得意とせしめたのである。 デュウゼを見た多くの人はその芸を芸術としては見なかった。苦痛のために烈し・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫