・・・大きい鮟鱇が、腹の中へ、白張提灯鵜呑みにしたようにもあった。 こん畜生、こん畜生と、おら、じだんだを蹈んだもんだで、舵へついたかよ、と理右衛門爺さまがいわっしゃる。ええ、引からまって点れくさるだ、というたらな。よくねえな、一あれ、あれよ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・――ほかに鮟鱇がある、それだと、ただその腹の膨れたのを観るに過ぎぬ。実は石投魚である。大温にして小毒あり、というにつけても、普通、私どもの目に触れる事がないけれども、ここに担いだのは五尺に余った、重量、二十貫に満ちた、逞しい人間ほどはあろう・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・やがて見ろ、脂の乗った鮟鱇のひも、という珍味を、つるりだ。三の烏 いつの事だ、ああ、聞いただけでも堪らぬわ。(ばたばたと羽を煽二の烏 急ぐな、どっち道俺たちのものだ。餌食がその柔かな白々とした手足を解いて、木の根の塗膳、錦手の木の葉・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・随分大胆なのが、親子とも気絶しました。鮟鱇坊主と、……唯今でも、気味の悪い、幽霊の浜風にうわさをしますが、何の化ものとも分りません。―― といった場処で。――しかし、昨年――今度の漂流物は、そんな可厭らしいものではないので。……青竹の中・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
出典:青空文庫