・・・た一方ではある時期には群集を選ぶが他の時期、特に営巣生殖の時期には群れを離れて自分だけの領地を占領割拠し、それを結婚の予備行為とした上で歌を歌って領域占領のプロパガンダを叫び、そうして花嫁を呼び迎える鳥類もある。 エゴイストが自由を欲す・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・というものが色々あった、例えばある二、三の鳥類、それから獣類の心臓、反芻類の第一胃、それから魚類ではかながしらなどがいけないものに数えられている外に、豆がいけないことになっている、この「豆」というのが英語ではビーンと訳してあるのだが、しかし・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・ 上野の動物園の森で一度に鳴き出す色々の鳥類のけたたましい声が聞こえる。 廊下から中央階段を降りようとする途中で窓越しに東を見ると、地下鉄ビルの照明が見える。サッポロビールの活動照明、ビール罎の中から光の噴泉が花火のように迸しる。・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・花よりはむしろ鳥類の飾り毛にでもふさわしい色だと思う。頂上を見ると黄色がかった小さい花が簇生しているが、それはきわめて謙遜な、有るか無きかのものである。いったい自然はどうしていつもの習慣にそむいてこの植物の生殖器をこんなに見すぼらしくして、・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・たとえば利牛の句十八の中に鳥類は二度現われるが魚類は一つも現われないのである。 史邦の句三十八ばかりを書き抜いてすぐ気のついたことは「雨月」複合の多いことである。「月細く小雨にぬるる石地蔵」「酒しぼるしずくながらに月暮れて」「塩浜にふり・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・又我々だって無期徒刑じゃない、人類の仲間からと哺乳動物組合、鳥類連盟、魚類事務所などからまで勲章や感謝状を沢山贈られる訳です。どうです。おわかりになったらあなたもビジテリアンにおなりなさい。」 すると前の論士が立ちあがりました。大へん悔・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・それには、「海岸鳥類の卵採集の為に八月三日より二十八日間イーハトーヴォ海岸地方に出張を命ず。」 と書いてありました。わたくしはまるでほくほくしてしまいました。 あのイーハトーヴォの岩礁の多い奇麗な海岸へ行って今ごろありもしない卵・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・は、野生鳥類の生彩に溢れた観察、記述で感銘ふかいものである。「日本の鳥」は中西悟堂氏によって、どのような日本独特の鳥とそれに対する心を描いているのだろうか。 コフマンは、猿と類人猿の話につづく次の章で変った人種の話の項を展開しているが、・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・新らしい卵を産んだと云うのに朗らかな歌も歌えない鳥類――若しや――人間に飼われ 飛ぶ空もなく卵はあとから盗まれるので彼那 不快な心になったのか?若しそうならば――……ああ、あわれ あわれ彼等は 野禽の昔さ・・・ 宮本百合子 「五月の空」
出典:青空文庫