・・・それからあたかも卒然と天上の黙示でも下ったように、「これはこうでしょう」と呼びかけながら、一気にその個所を解決した。保吉はこの芝居のために、――この語学的天才よりもむしろ偽善者たる教えぶりのために、どのくらい粟野さんを尊敬したであろう。……・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・しかし神はモーセの祈願を聴きたまいしがごとくにダルガスの心の叫びをも聴きたまいました。黙示は今度は彼に臨まずして彼の子に臨みました、彼の長男をフレデリック・ダルガスといいました。彼は父の質を受けて善き植物学者でありました。彼は樅の成長につい・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・「わが誇るは益なしと雖も止むを得ざるなり、茲に主の顕示と黙示とに及ばん。我はキリストにある一人の人を知る。この人、十四年前に第三の天にまで取り去られたりわれは斯のごとき人を知るかれパラダイスに取り去られて言い得ざる言、人の語るまじき言を・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・ それで芸術家が神来的に得た感想を表わすために使用する色彩や筆触や和声や旋律や脚色や事件は言わば芸術家の論理解析のようなものであって、科学者の直感的に得た黙示を確立するための論理的解析はある意味において科学者の技巧とも見らるべきものであ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ただ具体的な実例の取り扱いの中に黙示的に含蓄されているだけである。たとえば、ある一つの現象がたくさんの因子の共存的効果によって決定される場合に、いかにして各個の因子の個々の影響を分析すべきかというような問題に対するいろいろの方法が示されてい・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
終始末期を連続しつつ、愚な時計の振り子の如く反動するものは文化である。かの聖典黙示の頁に埋れたまま、なお黙々とせる四騎手はいずこにいるか。貧、富、男、女、層々とした世紀の頁の上で、その前奏に於て号々し、その急速に於て驀激し・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫