・・・しかしてその国は荒野と変わりつ。 路傍の梅 少女あり、友が宅にて梅の実をたべしにあまりにうまかりしかば、そのたねを持ち帰り、わが家の垣根に埋めおきたり。少女は旅人が立ち寄る小さき茶屋の娘なりき、年経てその家倒れ、・・・ 国木田独歩 「詩想」
・・・彼の不屈の精神はこの磽こうかくの荒野にあっても、なお法華経の行者、祖国の護持者としての使命とほこりとを失わなかった。 佐渡の配所にあること二年半にして、文永十一年三月日蓮は許されて鎌倉に帰った。しかるに翌四月八日に平ノ左衛門尉に対面した・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そして今は、偽札が西伯利亜の曠野を際涯もなく流れ拡まって行っていた。………… 黒島伝治 「穴」
・・・そして今は、偽札が西伯利亜の曠野を際涯もなく流れ拡まって行っていた。………… 黒島伝治 「穴」
・・・ 彼等の周囲にあるものは、はてしない雪の曠野と、四角ばった煉瓦の兵営と、撃ち合いばかりだ。 誰のために彼等はこういうところで雪に埋れていなければならないだろう。それは自分のためでもなければ親のためでもないのだ。懐手をして、彼等を酷使・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 彼等の周囲にあるものは、はてしない雪の曠野と、四角ばった煉瓦の兵営と、撃ち合いばかりだ。 誰のために彼等はこういうところで雪に埋れていなければならないだろう。それは自分のためでもなければ親のためでもないのだ。懐手をして、彼等を酷使・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 黒龍江軍の前哨部隊は、だゝッぴろい曠野と丘陵の向うからこちらの様子を伺っていた。こちらも、攻撃の時期と口実をねらって相手を睨みつゞけた。 十一月十八日、その彼等の部隊は、東支鉄道を踏み越してチチハル城に入城した。昂鉄道は完全に××・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・ 黒龍江軍の前哨部隊は、だゝッぴろい曠野と丘陵の向うからこちらの様子を伺っていた。こちらも、攻撃の時期と口実をねらって相手を睨みつゞけた。 十一月十八日、その彼等の部隊は、東支鉄道を踏み越してチチハル城に入城した。昂鉄道は完全に××・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・ 四 数十台の橇が兵士をのせて雪の曠野をはせていた。鈴は馬の背から取りはずされていた。 雪は深かった。そして曠野は広くはてしがなかった。 滑桁のきしみと、凍った雪を蹴る蹄の音がそこにひびくばかりであった。・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・ ――遠いはてのない曠野を雪の下から、僅かに頭をのぞかした二本のレールが黒い線を引いて走っている。武装を整えた中隊が乗りこんだ大きい列車は、ゆる/\左右に眼をくばりつゝ進んで行った。線路に添うて向うの方まで警戒隊が出されてあった。線路は・・・ 黒島伝治 「氷河」
出典:青空文庫