・・・ その頃学校改築のことで自分はその委員長。自分の外に六名の委員が居ても多くは有名無実で、本気で世話を焼くものは自分の外に升屋の老人ばかり。予算から寄附金のことまで自分が先に立って苦労する。敷地の買上、その代価の交渉、受負師との掛引、割当・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・を交換したり「獄内中央委員会」というものさえ作っている、そして例えば、外部の「モップル」と連絡をとって、実際の運動と結びつこうとしたり、内では全部が結束して「獄内待遇改善」の要求を提出しようとしているそうだ。 彼奴等がわれ/\をひッつか・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・そこは地方によくあるような医院の一室で、遠い村々から来る患者を容れるための部屋になっていた。蜂谷という評判の好い田舎医者がそこを経営していた。おげんが娘や甥を連れてそこへ来たのは自分の養生のためとは言え、普通の患者が病室に泊まったようにも自・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ それら全部の救護は、ことごとく、少数の医員たちの外、すべて二十年以下の、年わかい看護婦五十名の、ちつじょただしい、ぎせい的の努力によって、しとげられたのです。 そのとき浜離宮へは、すでに何万という市民がひなんしていました。火の子は・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・×日正午すぎ×区×町×番地×商、何某さんは自宅六畳間で次男何某君の頭を薪割で一撃して殺害、自分はハサミで喉を突いたが死に切れず附近の医院に収容したが危篤、同家では最近二女某さんに養子を迎えたが、次男が唖の上に少し頭が悪いので娘可愛さから思い・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・船橋に移ってからは町の医院に行き、自分の不眠と中毒症状を訴えて、その薬品を強要した。のちには、その気の弱い町医者に無理矢理、証明書を書かせて、町の薬屋から直接に薬品を購入した。気が附くと、私は陰惨な中毒患者になっていた。たちまち、金につまっ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・この子のかよっている医院も、きっと焼けるに違いない、また他の病院も、とにかく甲府には、医者が無くなる。そうすると、この子は失明のままで、どうなるのだろう。万事、休す。「なんでもいい。とにかく、もう一月は待ってくれてもよさそうに思うがねえ・・・ 太宰治 「薄明」
・・・此間委員会の事を聞きに往ったとき、好くも幹事に聞けなんと云って返したな。こん度逢ったら往来へ撮み出して遣る。往来で逢ったら刀を抜かなけりゃならないようにして遣る。」 左隣の謡曲はまだ済まない。右の耳には此脅迫の声が聞えるのである。僕は思・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・の一男子自ら顧るに庸且つ鄙たりと雖も、たゆまざる努力を用いて必ずやこの老いの痩腕に八郎にも劣らぬくろがねの筋をぶち込んでお目に掛けんと固く決意仕り、ひとり首肯してその夜の稽古は打止めに致し、帰途は鳴瀬医院に立寄って耳の診察を乞い、鼓膜は別に・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・学芸部の委員なのかも知れません。私たちは駅から旅館まで歩きました。何丁くらいあったのでしょう。私は、ご存じのように距離の測定が下手なので、何丁程とも申し上げられませんが、なんでも二十分ちかく歩きました。新潟の街は、へんに埃っぽく乾いていまし・・・ 太宰治 「みみずく通信」
出典:青空文庫