・・・そんな紙面を見ると、ある種の人々の感情はなんだかうんざりしてしまう。本質的には、底をついた植民地的収奪の生活にうんざりしているその気持が、新聞記事の調子を通して、組合だの、前衛組織だのへ向って流されてゆく。めいめいの現実につながった人民的な・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ たよりにならない、母親や弟の事を思って、お君はうんざりした様な顔をした。 誰か一人、しっかりとっ附いて居て安心な人を望む心が、お君の胸に湧き上って、目の前には、父親だの母、弟又は、家に居た時分仕事を一緒にならって居た友達の誰れ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・彼女のような廉直なひとに、彌次馬的なわいわい騒ぎや、女だということについての物見高さや、俄な尊敬、阿諛がうんざりであったこと、その気分からそういう形に要約された言葉の出たこともわかる。けれども、エーヴの筆がやはりその限界にとどまっていること・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・ 女の人が、総体経済家で、きれいずきで、家政的に育て上げられているのは、一寸傍から見れば、共に生活する男の人の幸福のようだが、右を向いても左を向いても、母、妻、姉妹皆同一の型でちんまり纏っているとうんざりと見え、京都の男は遊ぶ。 遊・・・ 宮本百合子 「京都人の生活」
・・・ もとスウィートピーにアスピリンをやったら、すっかり花が上を向いて紙細工のようになってうんざりしたことがあった。 この頃の小説の題は皆一凝りも二凝りもこって居ます。高見順の「起承転々」「見たざま」村山知義の「獣神」、高見順は説話体という・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・時には、うんざりさせてしまうような調子の高い陽気さも彼女の裡にはしっくりと融和されて、女性の強靭な弾力を輝やかせる一色彩となりますでしょう。 彼女こそは愛すべき永遠の女性として、地上の歓びを生むべきなのでございます。 けれども、C先・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・小説は、退屈まぎらしによむものとしている人々でも、まずいタバコを軽蔑するように、どれもこれも同じようなジャーナリズム文学には、うんざりしているのである。 文学がボロイ仕事でないと理解されることはむしろ理の当然である。そして、商業主義と文・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・ 「さあ、一寸これをよんでおくれ、まあ何て下らないんだろう、すぐピーターに御礼を云ってかえして下さい、――おや、お前さん、まだ着かえがすまないの、仕様のない人だこと、いつでも私はまたされる うんざりですよ my dear.」「・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ きく方でうんざりしてしまう。 ○今まで人に思うままのさしずや命令を与えられなかった分を、今しようとするが如く。 私は寂しき微笑を洩す。 志賀直哉氏のものをよみ乍ら 自分達夫婦に、旅行と性慾の問題は密接な・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・ここでもなかなか発車しそうにない。うんざりしながら鄙びた小さな停車場をながめていると、突然陽気な人声が聞こえて四、五人の男女が電車へ飛び込んで来た。よほど馳けて来たらしく息を切らしている人もある。ふと見るとその一人が寺田先生であった。 ・・・ 和辻哲郎 「寺田さんに最後に逢った時」
出典:青空文庫