・・・太平の夢はこれらのエンジンの騒音に攪乱されてしまったのである。 交通規則や国際間の盟約が履行されている間はまだまだ安心であろうが、そういうものが頼みにならない日がいつなんどき来るかもしれない。その日が来るとこれらの機械的鳥獣の自由な活動・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・太平の夢はこれらのエンジンの騒音に攪乱されてしまったのである。 交通規則や国際間の盟約が履行されている間はまだまだ安心であろうが、そういうものが頼みにならない日がいつ何時来るかもしれない。その日が来るとこれらの機械的鳥獣の自由な活動が始・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・のメロディーを放散していると、いつのまにか十人十五人の集団がその下に円陣を作るのも、あながち心理的ばかりではなくて、なにかわれわれのまだ知らない生理的な因子がはたらいているのかもしれない。 朝九時ごろ出入りのさかな屋が裏木戸をあけて黙っ・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・そして家畜を中心にして行列の人と見物人とが円陣を作った。 行列の一人が中央に進み出て演説を始めた。私は一所懸命にその演説者の言葉の意味を拾おうと思って努力したが、悲しい事には少しも何の事だか分らなかった。ただ時々イエネラール何とかいう言・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・ デッキでは、セーラーたちが、エンジンでは、ファイヤマンたちが、それぞれ拷問にかかっていた。 水夫室の病人は、時々眼を開いた。彼の眼は、全で外を見ることが能きなくなっていた。彼は、瞑っても、開けても、その眼で、糜れた臓腑を見た。云わ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・しかし、エンジンの工合が損じ、ドアは開かないまま、上野を出てしまった。 鶯谷へついたとき、人々はせき立って、窓から降りはじめた。男たちばかりが降りている。そのうちやっと、ドアが開いた。 出口に近づいて行ったら、反対の坐席の横の方・・・ 宮本百合子 「一刻」
・・・少し出て来た風にその薄のような草のすきとおった白い穂がざわめく間を、エンジンの響を晴れた大空のどこかへ微かに谺させつつ自動車は一層速力を出して単調な一本道を行く。 ショウモンの大砲台の内部は見物出来るようになっていた。一行が降り立ったら・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
・・・一部でヒ行器のエンジン。────────────────────────────────── ◎各工場の建物分離。はじからはじまで三十分もかかる。工場のドアをしめきると、各工場分り出来る。ふだん、他職場へゆくこと禁止。・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・ 君は、自動車消費者の立場で、それを眺め、ボディーの美しさを味い、このみの色にエナメルする者の立場で、自動車の美について云っているのか、または、エンジンの発達を先ず根本におく自動車製作者の立場でその美をつかみ理解しているのか? 五ヵ年計・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・その淋しさに心を打たれる弱い自分に反抗する心持とが、他のいろいろな不調和と一緒になって、彼女を次第に不自然な厭人的傾向に導いて行った。 そして、人と話し、人と笑いしている間に、いつともなく緩められて行くいろいろの感情、特に空想や、漠然と・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫