・・・それを安全にやるために、われ/\の前衛を牢獄につないで置くのだ、――今になって見ると、お君にはそのことがよく分った。メリヤス工場でもその手をやっていたのだ。今夫が帰って来てくれたら! 職業紹介所の帰りだった。お君はフト電信柱に、「共産党・・・ 小林多喜二 「父帰る」
・・・だれの戯れから始まったともなく、もう幾つとなく細い線が引かれて、その一つ一つには頭文字だけをローマ字であらわして置くような、そんないたずらもしてある。「だれだい、この線は。」 と聞いてみると、末子のがあり、下女のお徳のがある。いつぞ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・たんぽぽを机の上に置く。手紙はもう書きたくない。藤さんがもう一度やってこないかと思う。ちぎった書き崩しを拾って、くちゃくちゃに揉んだのを披げて、皺を延ばして畳んで、また披げて、今度は片端から噛み切っては口の中で丸める。いつしかいろいろの夢を・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・彼等を繋いで置く職務等と云うものがないので、彼等は、皆のものになります。丁度、どの町にも、人々が皆行って休息出来る広場がなくてはならないように、一つの村には、二人か三人、誰にでも相手をしていられる暇人が必要です。そう云う人さえいれば、私共が・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。「秋について」という注文が来れば、よし来た、と「ア」の部の引き出しを開いて、愛、青、赤、アキ、いろいろのノオトがあって、そ・・・ 太宰治 「ア、秋」
・・・もしこれが後日、何か雑誌にでも掲載された場合、太宰はキザな奴だ、キリスト気取りで、あのヨハネ伝の弟子の足を洗ってやる仕草を真似していやがる、げえっ、というような誤解を招くおそれなしとしないので一言弁明するが、私はただはだしで歩いている子供の・・・ 太宰治 「美男子と煙草」
・・・それから銀行であるが、なるほどウィインの銀行は、いてもいなくても好い役人位は置く。しかしそれに世界を漫遊させる程、おうような評議会を持っている銀行は、先ずウィインにも無い。 * * *・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・しかしここでもし下手な監督がこのような筆法を皮相的にまねてこれに似たことをやったとしたら、この単調な繰り返しはたぶん堪え難い倦怠を招くほかはないであろう。実際そういうまずいほうの実例はいくらでもある。それをそうさせない微妙な呼吸はただこの際・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・同じような場面の繰り返しが多すぎて倦怠を招く箇所が少なくない。 この映画のストーリーの原作では、たしか、最後に忠犬が猛獣を倒して自分もその場で命をおとすようなことになっているかと思う。それが映画ではハッピー・エンドになっている。たぶんこ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ほぼこれと同大のガラス板に墨と赤および緑のインキでいいかげんな絵を描いたのをこの小さなスクリーンの直接の背後へくっつけて立てて、その後ろに石油ランプを置くだけである。もっともそのスクリーンの周囲の同平面をふろしきやボール紙でともかくもふさい・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
出典:青空文庫