・・・ と、さすが客商売の、透かさず機嫌を取って、扉隣へ導くと、紳士の開閉の乱暴さは、ドドンドシン、続けさまに扉が鳴った。 五「旦那は――ははあ、奥方様と成程。……それから御入浴という、まずもっての御寸法。――そこ・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・ 格子戸の開閉静かに娘の出て行った後で、媼さんは一膝進めて、「どうでございましょう?」「少しね、話が変って来ましてね」「え、変って来ましたとは?」と気遣わしそうに対手を見つめる。「始めの話じゃ恐ろしく急ぎのようでしたけど、今・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・其方で木戸を丈夫に造り、開閉を厳重にするという条件であったが、植木屋は其処らの籔から青竹を切って来て、これに杉の葉など交ぜ加えて無細工の木戸を造くって了った。出来上ったのを見てお徳は「これが木戸だろうか、掛金は何処に在るの。こんな木戸な・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・つづいて、ちかくの扉が、ばたんばたん、ばたんばたん、十も二十も、際限なく開閉。私は、ごみっぽい雑巾で顔をさかさに撫でられたような思いがした。みな寝しずまったころ、三十歳くらいのヘロインは、ランタアンさげて腐りかけた廊下の板をぱたぱた歩きまわ・・・ 太宰治 「音に就いて」
・・・ずいぶん恥ずかしいもんだから、その財布にも、箪笥にも、なるべく手をふれないよう、無闇に開閉しないように、そっと大事に、いたわるようになるのだ。いじらしいじゃないか。ずいぶん、つましい奥ゆかしいことなんだ。君は、それから、子供の財布さえ盗んだ・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・鉄格子と、金網と、それから、重い扉、開閉のたびごとに、がちん、がちん、と鍵の音。寝ずの番の看守、うろ、うろ。この人間倉庫の中の、二十余名の患者すべてに、私のからだを投げ捨てて、話かけた。まるまると白く太った美男の、肩を力一杯ゆすってやって、・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・また運転嬢の労力にしたところで二階で出る人のために扉を開閉するのも二階ではいる人のために扉を開閉するのも同じであるからこれも別に問題にはならない。 同乗客の側から言っても、他の便利のために少しの窮屈や時間の消費を我慢するくらいなことは当・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ 目はまぶたによって任意に開閉され、また頭を動かすことなしにある程度までは自由に左右上下に動かされる。しかし耳は耳だけではそういう自由をもたない。この事実にもいろいろな意味があるが、主要な目的論的意義はやはり光と音との本質的差異と連関し・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・給仕をするのに、一々、大きな扉の開閉をせず、配膳室との境に、適当な大きさのハッチをつけ、台所で料理出来たものは、彼方側から其処の棚にのせ、給仕人が、此方から、部屋を出ず食卓に運ぶ。 とかく五月蠅い人の出入りは、食事中なる丈さけたいと思い・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
出典:青空文庫