・・・自由に対する慾望とは、啻に政治上または経済上の束縛から個人の意志を解放せむとするばかりでなく、自己みずからの世界を自己みずからの力によって創造し、開拓し、司配せんとする慾望である。我みずから我が王たらんとし、我がいっさいの能力を我みずから使・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・旧の盆過ぎで、苧殻がまだ沢山あるのを、へし折って、まあ、戸を開放しのまま、敷居際、燃しつけて焼くんだもの、呆れました。(門火なんのと、呑気なもので、(酒だと燗だが、こいつは死人焼……がつがつ私が食べるうちに、若い女が、一人、炉端で、うむと胸・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・――もっともその折は同伴があって、力をつけ、介抱した。手を取って助けるのに、縋って這うばかりにして、辛うじて頂上へ辿ることが出来た。立処に、無熱池の水は、白き蓮華となって、水盤にふき溢れた。 ――ああ、一口、水がほしい―― 実際、信・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・七兵衛は口軽に、「とこう思っての、密と負って来て届かねえ介抱をしてみたが、いや半間な手が届いたのもお前の運よ、こりゃ天道様のお情というもんじゃ、無駄にしては相済まぬ。必ず軽忽なことをすまいぞ、むむ姉や、見りゃ両親も居なさろうと思われら、・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ それだからこうやって、夜夜中開放しの門も閉めておく、分ったかい。家へ帰るならさっさと帰らっせえよ、俺にかけかまいはちっともねえ。じゃあ、俺は出懸けるぜ、手足を伸して、思うさま考えな。」 と返事は強いないので、七兵衛はずいと立って、・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・傷心した、かよわい令嬢の、背を抱く御介抱が願いたい。」 一室は悉く目を注いだ、が、淑女は崩折れもせず、柔な褄はずれの、彩ある横縦の微線さえ、ただ美しく玉に刻まれたもののようである。 ひとりかの男のみ、堅く突立って、頬を傾げて、女を見・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・六畳に三畳、二階が六畳という浅間ですから、開放しで皆見えますが、近所が近所だから、そんな事は平気なものです。――色気も娑婆気も沢山な奴等が、たかが暑いくらいで、そんな状をするのではありません。実はまるで衣類がない。――これが寒中だと、とうの・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 小県は窓を開放って、立続けて巻莨を吹かした。 しかし、硝子を飛び、風に捲いて、うしろざまに、緑林に靡く煙は、我が単衣の紺のかすりになって散らずして、かえって一抹の赤気を孕んで、異類異形に乱れたのである。「きみ、きみ、まだなかな・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・……きっと御介抱申します。私はこういうものです。」 なふだに医学博士――秦宗吉とあるのを見た時、……もう一人居た、散切で被布の女が、P形に直立して、Zのごとく敬礼した。これは附添の雑仕婦であったが、――博士が、その従弟の細君に似たのをよ・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・小宮山は一晩介抱を引受けたのでありまするから、まず医者の気になりますと物もいい好いのでありました。「姉さん、さぞ心細いだろうね、お察し申す。」「はい。」「一体どんな心持なんだい。何でも悪い夢は、明かしてぱッぱと言うものだと諺にも・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
出典:青空文庫