・・・しかし、治安維持法があり、現実が現実の内容のままの素直さで語られ、追究され解明されることの不可能だった時代にかかれた「くれない」で、佐多稲子は「思いあがり」という自責的な表現でうらから後家のがんばりに不十分に触れてゆくしかなかった。「思いあ・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・現代文学が主題とするヒューマニズム探求の一環として見た場合、D・H・ローレンスの文学は、こんにちの現実を解明するためにローレンス氏方式ではすでに不十分であることを、明かにして来ているのである。 敗戦後の日本に、肉体派とよばれる一連の文学・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・「各人物の性格なぞも現代的特徴のうちに生かされてはいるし、それが矛盾に於て把握されているが、そうした矛盾した複雑性も、作者の余りにも構えた分析解明の跡が見えすぎ、如実に操られている各性格が息のかよわぬ人形であることがいよいよ哀しく読者に印象・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・この社会的不安が肉体にあらわす精神障害を、一つの抑圧されたコムプレックスとしてフロイドは解明しようとした。当時でも、この方法は十分科学的ということはできない、精神現象の生物的性格に局限された扱いかたであった。しかし、フロイドの精神分析は何か・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・どこにより正確な解明を見出す手がかりをさがせるというのだろう。 何か知りたくて一つの本を読む。しかしそれだけではどうも不満で、また別の本をさがす。つづけてまた別のを、と、今日の本の読まれかたの多量さのうちには、何ごとかが判ったから先へ進・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・現実のそれぞれの局面に付せられている名称や説明は、それとして現実の実際の解明と等しいものではないことが生活感情としては何となし直感されている。だがその現実の二重焼つけのような映像に対して、どんな態度かと云えば極めて心理的な麻痺の状態におかれ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・家の一生とそこにのこされている文学的業績とから私達が遺産として価値あるものを獲て行こうと努力する場合、私たちの探求の中心は常にその作家の生活態度の中に現れ、従って各作品に鋭くふくまれて出ている諸矛盾の解明というところにおかれざるを得ないよう・・・ 宮本百合子 「作家研究ノート」
・・・蔵原惟人の芸術論のなかではまだ筆者自身にとって曖昧にしかとらえられていなかった芸術性というものをも、文学原理として、ここで初めてはっきり会得出来るものとして解明されている。「文学史と批評の方法」で、著者は過去の理解が、現実の歴史との関係で文・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・特に、今日の科学では未だ現実の諸現象のあまねき隅々までを、すべての人々の感情に納得ゆくように解明し切らない部分がのこされていることが、科学者自身の生きかたにさえ妙な信念の欠乏と分裂とをおこさせている実例が決して尠くない。この分裂において、ヨ・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・小林秀雄の文芸批評が、当時から一般読者に迎えられるようになったのは、それが時代と文学の在りようを解明する力を持っていたからではなくて、その力を失った所謂知性の時代的なスタイルそのものが共感をもたれたことが最大の原因である。 この評論家と・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫