・・・亀のチャーリーは相もかわらず貧乏で冬じゅう何も食わぬ二匹の亀の子とボロ靴下を乾したニューヨークの小部屋では五セントの鱈の頭を食って暮しているがピオニイルはゾクゾク殖えてゆくという物語を、五章からなるエピソード的構成で書いているのである。・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・小学校に入れはしたけれど、卒業させるだけの六年間が待てなかった切ない親が何万人かあるのも明日にかわらぬ実際だろう。同じ年の三月に入学する児童の数と卒業してゆく子の数とを見くらべると、就学率こそ年々九九パーセントを示していても、卒業する少年少・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・何としたって、資本主義の世の中がかわらない限り、この地獄はつづくことを、プロレタリアの婦人はハッキリ見るようになって来た。 そこで何か目先のゴマ化しで、プロレタリア婦人の根づよい怒りをはぐらかそうとしてこういう産院建立も考え出されたわけ・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・は手馴れたかきかたで、大人の常識と少年の心情のくいちがいのモメントをとらえ、先生を慕い信頼する少年の感情を描いている、しかし全体を抒情性でばかり貫いていて、特に終りの河原の場面は安易な映画の情景のように通俗的におちいっている、冒頭の、少年を・・・ 宮本百合子 「選評」
・・・ 声は前にかわらずやさしいけれ共「その様子では可愛いどころか一寸好いなんかと思う人が有ったら天地がさかさになってしまうだろう」兄君はその美くしい眼にかるい冷笑をうかべながらこんな人のわるいことを思って居た。 常盤の君はわきに居る人を・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・それにしたがって興味もうすいわけだが、農業にしたがう事は、大臣とかわらない、大切な立派な仕事であると自覚し、はたでもまた、雨につけ、風につけての心づかいを思いくむ様にしなければいけないと思う。 とにかく、東北の農民、――これから進歩した・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 人間と申すものは高い低いにかかわらいで己の権内に歩みこまるるのをこのまぬものじゃ。法 じゃが僧官の任命権等と申すものはもとより宗教の事でござるでの。 一国の宗教の司の法王がそれは持って居るべきはずのものでのう。王 法王・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・岸の石垣にぴったり寄せて、河原に大きい材木がたくさん立ててあります。荒川の上から流して来た材木です。昼間はその下で子供が遊んでいますが、奥の方には日もささず、暗くなっている所があります。そこなら風も通しますまい。わたしはこうして毎日通う塩浜・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・砲車の轍の連続は響を立てた河原のようであった。朝日に輝いた剣銃の波頭は空中に虹を撒いた。栗毛の馬の平原は狂人を載せてうねりながら、黒い地平線を造って、潮のように没落へと溢れていった。 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫