・・・ それは一つの厚い紙へ刷ってみんなで手に持って歌えるようにした楽譜でした。それには歌がついていました。 ポラーノの広場のうたつめくさ灯ともす 夜のひろばむかしのラルゴを うたいかわし雲をもどよもし 夜風にわすれ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ ひとりの少女が楽譜をもってためいきしながら藪のそばの草にすわる。 かすかなかすかな日照り雨が降って、草はきらきら光り、向うの山は暗くなる。 そのありなしの日照りの雨が霽れたので、草はあらたにきらきら光り、向うの山は明るくなって・・・ 宮沢賢治 「マリヴロンと少女」
・・・自分は、まるで素人で、楽譜に対する知識さえ持っていませんでした。けれども、音に、胸から湧く熱と、精神の支配力との調和が、驚くほど現れ、小説で、所謂技巧内容と云う考えの区別のしかたに、新しい眼を開かせられました。〔一九二二年六月〕・・・ 宮本百合子 「ジムバリストを聴いて」
・・・ 松本氏が、急になくなられた許婚の愛人栄子さんと岳父の代人で結婚の盃をあげられた行為は、氏の年齢や学歴やその地方での素封家であるというような条件と対照して、私共の注意を一層呼び起したと思われます。「松本氏の年や地位にてらして何という今の・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
出典:青空文庫