・・・ きょうはあなたの護衛の騎士になってあげるわよ」「ありがとう。でもきょうはいいわ、五時に日比谷で原に会うの」「ハハア」桃子は抑揚をつけてそう云いながら大きく顎をひいて芝居がかりの合点をすると、手にもっていたベレーを振って、シラノ・ド・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・ドン・キホーテが、彼の大切な騎士物語の本たちを焼かれたとき、ドン・キホーテは何と歌ってサンチョを慰めてやったろう。「サンチョよ、泣くな、私の本は失われても、私の生活の物語は失われることはないだろう。」 現代の歴史では、ドン・キホーテが単・・・ 宮本百合子 「本棚」
・・・「レオニード・グレゴリウィッチ、どうか貴方、可哀そうなマリーナ・イワーノヴナの忠実な騎士になって上げて下さい、ね、お拒みなさりはしませんわね」 ジェルテルスキーは、黒い洋袴を穿いた脚を組みながら、丁寧に碧い眼を見開いて対手を見守った・・・ 宮本百合子 「街」
・・・貧、富、男、女、層々とした世紀の頁の上で、その前奏に於て号々し、その急速に於て驀激し、その伴奏に於てなお且つ奔闘し続ける、黙示の四騎士はこれである。もしも黙示の彼らが、かかる現前の諸相であると仮定したなら、彼らの中の勝者はいずれであるか。曾・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・いわば正義の騎士に商売換えをしたメフィストである。従ってこのメフィストはファウストを持っていないのである。そうしてまた、ショオ自身の内にも、ファウストは全然いないらしい。彼は善の塊のように、自己を築きおわった人のように、安固として動かない。・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫