・・・それにしてもより稀薄に支配階級の血を伝えた私生児中にかかる気勢が見えはじめたことは、大勢の赴くところを予想せしめるではないか。すなわち私生児の供給がやや邪魔になりかかりつつあるのを語っているのではないか。この実状を眼前にしながら、クロポトキ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・府としての公共的な事業が発達しないとケナス人もあるが、予は、この一事ならずんばさらに他の一事、この地にてなし能わずんばさらにかの地に行くというような、いわば天下を家として随所に青山あるを信ずる北海人の気魄を、双手を挙げて讃美する者である。自・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・他の犬士の物語と比べて人間味が著しく稀薄であるが、殊に京都の物語は巽風・於菟子の一節を除いては極めて空虚な少年武勇伝である。 本来『八犬伝』は百七十一回の八犬具足を以て終結と見るが当然である。馬琴が聖嘆の七十回本『水滸伝』を難じて、『水・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・に過ぎない遊戯と思いながら面白半分の応援隊となっていたが、それ以来かくの如き態度は厳粛な文学に対する冒涜であると思い、同時に私のような貧しい思想と稀薄な信念のものが遊戯的に文学を語るを空恐ろしく思った。 同時に私は二葉亭を憶出した。巌本・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・活動写真は、たゞ眼先をいろ/\に換えて其の間に、驚異と人情とを印象させるようにするけれど、もとより稀薄たるを免れない。しばらくは忘れることの出来ぬようなものであってもやがては忘れてしまうのです。凡そその程度のものであるから、もとより享楽すべ・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・何が善いか、悪いか、正不正の感覚と興味との稀薄なことが人間として低卑であることはそれにもまして恥じねばならぬことである。人の道、天の理、心の自律――近くは人間学的倫理学の強調するような「世の中の道」にまでひろがるところの一般の倫理的なるもの・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ かようにして志と気魄とのある青年は、ややもすれば甘いものしか好むことを知らない娘たちに、どんな青年が真に愛するに価するかを啓蒙して、わが心にかなう愛人に育てあげるくらいの指導性を持たねばならぬ。 娘たちに求愛し、その好みにそわんと・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・百日の後彼は再び鎌倉に帰って松葉ヶ谷の道場を再興し、前にもまして烈々とした気魄をもって、小町の辻にあらわれては、幕府の政治を糺弾し、既成教団を折伏した。すでに時代と世相とに相応した機をつかんで立ってる日蓮の説法が、大衆の胸に痛切に響かないは・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 動物的、本能的感情の稀薄な母性愛は骨ぬきの愛である。これが永遠に母親の愛の原動力である。これがなかったら、私たちは母親というものをこれほどなつかしく思うことはできないだろう。私は動物園で子どもを抱いている母猿を見るごとに感動せぬことは・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・人倫の根本愛の雛型である母子間の結紐を稀薄にすることが理想的社会の結合を暖かく、堅くするとはどうしても思われない。婦人は少なくとも三人や、四人の子どもは産んでくれねばならぬ。そして一人の子どもの哺乳や、添寝や、夜泣きや、おしっこの始末や、お・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
出典:青空文庫