・・・ 午後三時ごろ、学校から帰ると、私の部屋に三人、友だちが集まっています、その一人は同室に机を並べている木村という無口な九州の青年、他の二人は同じこの家に下宿している青年で、政治科および法律科にいる血気の連中でした。私を見るや、政治科の鷹・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・ 冬ながら九州は暖国ゆえ、天気さえよければごく暖かで、空気は澄んでいるし、山登りにはかえって冬がよいのです。 落葉を踏んで頂に達し、例の天主台の下までゆくと、寂々として満山声なきうちに、何者か優しい声で歌うのが聞こえます、見ると天主・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・『その次は今から五年ばかり以前、正月元旦を父母の膝下で祝ってすぐ九州旅行に出かけて、熊本から大分へと九州を横断した時のことであった。『僕は朝早く弟と共に草鞋脚絆で元気よく熊本を出発った。その日はまだ日が高いうちに立野という宿場まで歩・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・あまりに慾張って、肥料を吸収しすぎた麦は、実らないさきに、青いまゝ倒れて、腐ってしまう。そのように、トルストイという肥料から、あまり慾張ってそれを吸収しすぎると、こっちが、肥料負けがしてあぶない。 僕は、「三つの死」のみず/\しい、詩に・・・ 黒島伝治 「愛読した本と作家から」
・・・ 商品とかえられて持ちだされてきいたルーブル紙幣は、十二銭内外で、サヴエート国内でただ一カ所密売買をやっている、浦潮の朝鮮銀行へ吸収されて行った。 鮮銀はさらに、カムチャッカ漁場の利権を買ってる漁業会社へ、一ルーブル十八銭――二十銭・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・でさえ、四国地方に育った者や、九州地方に育った者が、自分の眼で見、肉体で感じた農村と、「土」の農村とを思いくらべて異っていることに気づく。「土」には極めて僅のことが精細に書かれているにすぎないことを感じるのである。日本人がロシア文学を読んで・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・果して秀次関白が罪を得るに及んで、それに坐して近衛殿は九州の坊の津へ流され、菊亭殿は信濃へ流され、その女の一台殿は車にて渡された。恐ろしいことだ、飯綱成就の人の言葉には目に見えぬ権威があった。 和歌は勿論堪能の人であった。連歌はさまで心・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・大内は西国の大大名で有った上、四国中国九州諸方から京洛への要衝の地であったから、政治上交通上経済上に大発達を遂げて愈々殷賑を加えた。大内は西方智識の所有者であったから歟、堺の住民が外国と交商して其智識を移し得たからである歟、我邦の城は孑然と・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 又禹貢の九州を見るに之にも一の系統の截然として存するを見る。東を青州といへるは五行によれるものにて、東方は木徳、色は青なるによれるなるべく、西を梁州といへるは、十二宮にて正西に當れる大梁、。而して宗教的思想より進みて道徳を以て人々の行・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・その他は、四国にも九州にもいまのところ見当らぬそうで、箱根サンショウウオというのが関東地方に棲息して居りますけれども、あれはまた全く違った構造を持っているもので、せいぜい蠑いもりくらいの大きさでありまして、それ以上は大きくなりませぬ。日本の・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
出典:青空文庫