・・・広い同盟の四方へ出かけ、そこへ文化の光をふりまくと同時に、そこにはじまっている農村または新工場都市の全然これまでとはちがう新しい社会生活、生産労働の形態から発生する心理を、めいめいの芸術の新素材として吸収しようとしたのであった。 五ヵ年・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・これは赤外線、紫外線を吸収して人工光線の下で仕事をするのに大変疲れないのだそうです。大奮発です。でも眼玉ですものね。そう云えば、私のこれを書いているテーブルの上には、馬の首のついた中学生じみた文鎮のわきに明視スタンドが立っているのです。その・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
福岡日日新聞の主筆猪股為治君は予が親戚の郷人である。予が九州に来てから、主筆はわざわざ我旅寓を訪われたので、予は共に世事を談じ、また間まま文学の事に及んだこともあった。主筆は多く欧羅巴の文章を読んで居て、地方の新聞記者中に・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・そこで五日間滞留して、ようよう九州行の舟に乗ることが出来た。四国の旅は空しく過ぎたのである。 舟は豊後国佐賀関に着いた。鶴崎を経て、肥後国に入り、阿蘇山の阿蘇神宮、熊本の清正公へ祈願に参って、熊本と高橋とを三日ずつ捜して、舟で肥前国・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・いかに貴い肥料が加えられても、それを吸収する力のない所では何の役にも立たない。私は教養の機会と材料とが我々の前に乏しいとは思わない。ただそれに相当する根が小さいのを忘れる。 汝の根に注意を集めよ。・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
・・・偉大な西洋文明を真髄まで吸収しつくした後に、初めて真に高貴な日本的がその内に現われるのではないだろうか。 この際このことを言うのはやや自己弁解に類する。しかし私はそう信じている。 今度の世界戦争は恐らく Menschheit の向上・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・もちろん能面は能の演技に使用されるものであり、謡と動作とによる表情を自らの内に吸収しなくてはならなかった。この条件が能面の制作家に種々の洞察を与えたでもあろう。しかしいかなる条件に恵まれていたにもせよ、人面を彫刻的に表現するに際して、自然的・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
・・・ このような面の働きにおいて特に我々の注意を引くのは、面がそれを被って動く役者の肢体や動作を己れの内に吸収してしまうという点である。実際には役者が面をつけて動いているのではあるが、しかしその効果から言えば面が肢体を獲得したのである。もし・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫