・・・そして僕のうった鹿が一番大きかった、今井の叔父さんは帰り路僕をそばから離さないで、むやみに僕の冒険をほめた。帰路は二組に分かれ一組は船で帰り、一組は陸を徒歩で帰ることにして、僕は叔父さんが離さないので陸を帰った。 陸の組は叔父さんと僕の・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・ 帰路に炭屋がある。この店は酒も薪も量炭も売り、大庭もこの店から炭薪を取り、お源も此店へ炭を買いに来るのである。新開地は店を早く終うのでこの店も最早閉っていた。磯は少時く此店の前を迂路々々していたが急に店の軒下に積である炭俵の一個をひょ・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・四線で南に着き、それからなお二百キロ北方に進んだ。 兵士達は、執拗な虱の繁殖になやまされだした。「ロシヤが馬占山の尻押しをしとるというのは本当かな?」もう二十日も風呂に這入らない彼等は、早く後方に引きあげる時が来るのを希いながら、上・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
・・・吾家の母さんが与惣次さんところへ招ばれて行った帰路のところへちょうどおまえが衝突ったので、すぐに見つけられて止められたのだが、後で母様のお話にあ、いくら下りだって甲府までは十里近くもある路を、夜にかかって食物の準備も無いのに、足ごしらえも無・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・我野、川越、熊谷、深谷、本庄、新町以上合せて六路の中、熊谷よりする路こそ大方は荒川に沿いたれば、我らが住家のほとりを流るる川の水上と思うにつけて興も多かるべけれと択び定め来しが、今この岐路にしるべの碑のいと大きなるが立てられたるを見ては、あ・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・自分は人々に傚って、堤腹に脚を出しながら、帰路には捨てるつもりで持って来た安い猪口に吾が酒を注いで呑んだ。 見ると東坡巾先生は瓢も玉盃も腰にして了って、懐中の紙入から弾機の無い西洋ナイフのような総真鍮製の物を取出して、刃を引出して真直に・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・ 案内記が詳密で正確であればあるほど、これに対する信頼の念が厚ければ厚いほど、われわれは安心して岐路に迷う事なしに最少限の時間と労力を費やして安全に目的地に到着することができる。これに増すありがたい事はない。しかしそれと同時についその案・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・こんな空想を帰路の電車の中で描いてみたのであった。 このはじめて見た文楽の人形芝居の第一印象を、近ごろ自分が興味を感じている映画芸術の分野に反映させることによってそこに多くの問題が喚起され、またその解決のかぎを投げられるように思われる。・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・ 帰路は夕日を背負って走るので武蔵野特有の雑木林の聚落がその可能な最も美しい色彩で描き出されていた。到る処に穂芒が銀燭のごとく灯ってこの天然の画廊を点綴していた。 東京へ近よるに従って東京の匂いがだんだんに濃厚になるのがはっきり分か・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ カルネラは体重一一九キロ身長二・〇五メートル、ベーアは九五キロと一・八八メートルだそうで、からだでは到底相手になれないのである。 しかし闘技中にカルネラは前後十二回床に投げられた。そのうちの一回では踝をくじかれ、また鼻をも傷つけら・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
出典:青空文庫