・・・そのときあちこちの氷山に、大循環到着者はこの附近に於て数日間休養すべし、帰路は各人の任意なるも障碍は来路に倍するを以て充分の覚悟を要す。海洋は摩擦少きも却って速度は大ならず。最も愚鈍なるもの最も賢きものなり、という白い杭が立っている。これよ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・この山の北十キロのところにはサンムトリの市がある。今度爆発すれば、たぶん山は三分の一、北側をはねとばして、牛やテーブルぐらいの岩は熱い灰やガスといっしょに、どしどしサンムトリ市におちてくる。どうでも今のうちに、この海に向いたほうへボーリング・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・教会の横から、村へ出る道路を一キロばかり行った辺です。」「うん。おまえは二十七日の晩ファゼーロと連れだって村の園遊会へ闖入したなあ。」「闖入というわけではありませんでした。明るくていろいろの音がしますので行って見たのです。」「そ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・そして、その限界をのりこえてより社会的に発展するか、またはより主観的なものに細分され奇形で無力なものになってゆくかの岐路に立った。この極めて興味のある文学上の課題はすべての人々がみているとおり今日またちがった歴史の段階に立って、解決され切ら・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・新設される四十二の発電所は二百二十億キロワット時の電力を生産各部門に供給するだろう。大きな西日が鋤をひっぱる馬の背とケシの花とを越えて静かに彼方の地平線に沈もうとする曠野に、耕作機械トラクターが響き出す。うねくる個人耕作の細い畦が消えて、そ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・砂糖はパン、肉、茶、石鹸、石油などと一緒に人別手帳によって一ヵ月に一キロ半買うことができる。けれども、かたまりが大きくてそのまま茶のコップには入れられない。胡桃割は割るべき胡桃とともに今モスクワじゅうの金物屋から姿を消しているから、ホテルの・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・この二千億という紙幣を百円札で八割、十円札二割とすると、面積六六万平方キロ。長さ八二万キロで地球のまわりの長さの二十倍。高さ富士山の百二十倍。この二千億を日本の総人口七千万と仮定すると一人が三千円ずつもっていられるはずである。ところが、実際・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・ この間ソ同盟の飛行機が北極を通過して一気に一万六百キロ翔んでカリフォルニアのサンジャシント飛行場へ着陸し、六十二時間九分で、北極経由モスクワ・北米間の「スターリン空路」を確立したことがあった。報道映画の世界的傑作の一つとして、シュミッ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・けいず買いのトルーソフは、こういう人生の微妙な岐路にあるゴーリキイを眺めて、そして、云うのであった。「マクシム、お前は泥棒の悪戯には入るな! 俺は考えるんだが、お前には他の道がある。お前は精神的な人間だ」「精神的って、どういう意味だ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 日が暮れかかった。帰路につくべき時になった。かれは近隣のもの三人と同伴して、道すがら糸くずを拾った場所を示した。そして途中ただその不意の災難を語りつづけた。 その晩はブレオーテの村を駆けまわって、人ごとに一条を話したが、一人もかれ・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫