・・・「首途に、くそ忌々しい事があるんだ。どうだかなあ。さらけ留めて、一番新地で飲んだろうかと思うんだ。」 六「貴方、ちょっと……お話がございます。」 ――弁当は帳場に出来ているそうだが、船頭の来ようが、ま・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・「省さん、刈りくらだよ」 というような掛け声で十四のおはまに揉み立てられた。「くそ……手前なんかに負けるものか」 省作も一生懸命になって昼間はどうにか人並みに刈ったけれど、午後も二時三時ごろになってはどうにも手がきかない。お・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・いてたんやけど、何やら様子が不思議やったんで、軍曹に目を離さんでおったんやが、これはいよいよキ印になっとるんや思た、自分のキ印には気がつかんで――『軍曹どの危の御座ります』僕が云うたら、『なアに、くそ! 沈着にせい』『みなやられたら・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・と、僕は何気なくそこへ落ちついた。 かみさんが出て行った跡で、ふと気がつくと、二階に吉弥の声がしている。芸者が料理屋へ呼ばれているのは別に不思議はないのだが、実は吉弥の自白によると、ここのかみさんがひそかに取り持って、吉弥とかの小銀行の・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・蹴ったりや。蹴ったくそわるいさかい、オギアオギアせえだい泣いてるとこイ、ええ、へっつい直しというて、天びん担いで、へっつい直しが廻ってきよって、事情きくと、そら気の毒やいうて、世話してくれたンが、大和の西大寺のそのへっつい直しの親戚の家やっ・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・僕は相変らずたたかれて、相変らず何くそと思って書いている。闘志で書いているようなものだ。東京の批評家は僕の作品をけなすか、黙殺することを申し合わしているようだ――と思うのは、僕のひがみだろうが、しかし、僕は酷評に対してはただ作品を以て答える・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・そんなことで、自分はその日酒を飲んではいたが、いくらかヤケくそな気持から、上野駅まで送ってきた洗いざらしの単衣着たきりのおせいを郷里につれて行って、謝罪的な気持から妻に会わせたりしたのだが、その結果がいっそうおもしろくなかった。弘前の菩提寺・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・ ──こいつは、くそッ、なにも出来なくなっちゃったな、と西山は思った。彼は、一寸なにかやると、すぐ検束騒ぎをするここの警察をよく知っていた。 三人は、藤井先生の家へ行くことが出来なくなった。宗保は、薪を積みに行くという真実味をよそう・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・「くそッ! 畜生! 百円がところ品物を持ち逃げしやがった!」おやじは口をとがらしていた。 呉清輝と田川とはおやじが扉の外に見えなくなると、吹きだすようにヒヒヒヒと笑いだした。 三日たった。呉清輝は、一方の腕を頸にぶらさげたまま、・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・貧乏ぐらい、くそ嫌いなものはない。が、その貧乏がいつも彼等につきまとっているのだ。 これまでの県会議員や、国会議員が口先で、政策とか、なんとか、うまいことを並べても、それは、その場限りのおざなりであることを彼等は十分知りすぎている。では・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
出典:青空文庫