・・・この社会に対立して存在している階級と階級との間の諸経緯ならびにそのたたかいをさしている。一人の人といえども、この社会では階級に属さない生きものでありえない。人間が階級社会に生活するからには、その文学も当然階級性をもたないわけにはゆかない。「・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・また、一度はそこで女優になろうとして後作家となって盛名をうたわれ、幾何もなくアメリカに去った田村俊子氏の生活経緯を見て居られることもあって、女性と芸術生活との問題については、それが特に日本の社会での実際となった場合、進歩的な見解の半面にいつ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・年論客が、曩日文学の芸術性を擁護して芸術至上の論策を行っていたことと思いあわせれば、純文学に於ける自我の喪失が如何に急速なテムポでその精神を文学以外のより力強い何物かに託さなければならなかったかという経緯がまざまざと窺われるのである。 ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・其らの経緯をも語っている点で、深い社会的興味をよび起すものなのである。 又、この一篇の自伝的小説をよむものは、日本の解放運動においては、その初めから雑階級にまで急進思想がひろがっていたこと、及び、プロレタリア文学運動の先進者が勤労階級出・・・ 宮本百合子 「『地上に待つもの』に寄せて」
・・・彼女は日本で極く短い期間にロマンチックな形で現れたインテリゲンツィアの婦人解放運動と前後して作家活動をはじめ、前の時代の自然主義の婦人作家が示さなかった女の自我の問題を恋愛の経緯の中に芸術化した。田村氏はそのことを極く自然発生的にやった。彼・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・小説はそういう心持にアサが辿りつくまでの経緯、腕のいい職工であるが勝気で古い母に圧せられ勝な良人の山岸との心持の交錯、大変物わかりのよい職長梶井のうごきなどを語って展開されているのである。 深い興味をもって読んだが、この長篇の前半と後半・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・これまでの純文学が一個人内面的経緯を孤立的に追求して来たのに対して、新たな文学は、この社会に一定の関係をもって生活し歴史とかかわりあっている人間群の悲喜をその文学の内容としようとした。そして、その作品にあらわれる主人公たちがそれぞれ多数のも・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・そして別当の手腕に対して、少からぬ敬意を表せざることを得なかった。 石田は鶏の事と卵の事とを知っていた。知って黙許していた。然るに鶏と卵とばかりではない。別当には systmatiquement に発展させた、一種の面白い経理法があって・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・しかし先輩に対する敬意を忘れてはならぬと思うので、私は死を決して堅坐していた。今でも私はその時の殊勝な態度を顧みて、満足に思っている。 義士等が吉良の首を取るまでには、長い長い時間が掛かった。この時間は私がまだ大学にいた時最も恐怖すべき・・・ 森鴎外 「余興」
・・・に義の人ができる。しかしながら因襲的道徳に鋳られし者が習慣性によって壕の埋め草となり蹄の塵となるのは豕が丸焼きにされて食卓に上るのと択ぶところがない。吾人はこの意味なき「忠君」に敬意を表したくない。同じく人としてこの世に実在するならば吾人の・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫