・・・ この文士、ひどく露骨で、下品な口をきくので、その好男子の編集者はかねがね敬遠していたのだが、きょうは自身に傘の用意が無かったので、仕方なく、文士の蛇の目傘にいれてもらい、かくは油をしぼられる結果となった。 全部、やめるつもりでいる・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・謂わば、互いにてれ臭く気まずくなり、僕は君に敬遠せられ、僕の意志に依らずとも、自然に絶交の形になるだろう。言いたいのは、それだけだ。では、失敬する。馬鹿野郎!」 ふらふらと立ち上った時に、「あの、失礼ですが、」 と名刺片手に笠井・・・ 太宰治 「女類」
・・・さすがの硬派たちも、私のこんな姿に接しては、あまりの事に、呆れて、敬遠したのかも知れませんね。私は今だってなかなかの馬鹿ですが、そのころは馬鹿より悪い。妖怪でした。贅沢三昧の生活をしていながら、生きているのがいやになって、自殺を計った事もあ・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・山中に住む野兎ならば、あるいは猟夫の油断ならざる所以のものを知っていて、之を敬遠するのも亦当然と考えられるのであるが、まさか博士は、わざわざ山中深くわけいり、野生の兎を汗だくで捕獲し、以て実験に供したわけでは無いと思う。病院にて飼養されて在・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・な情緒を、薔薇を、すみれを、虫の声を、風を、にやりと薄笑いして敬遠し、もっぱら、「我は人なり、人間の事とし聞けば、善きも悪しきも他所事とは思われず、そぞろに我が心を躍らしむ。」とばかりに、人の心の奥底を、ただそれだけを相手に、鈍刀ながらも獅・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・とぐろとは無礼千万なりと思えども、相手は身のたけ六尺、松の木の腕なれば、老生もじっと辛抱仕り候て、あいまいの笑いを口辺に浮べ、もっぱら敬遠の策を施し居り候。しかるに杉田老画伯は調子に乗り、一体この店には何があるのだ、生葡萄酒か、ふむ、ぶてい・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・さすがの酒豪たちも、ウイスキイのドブロクは敬遠の様子でした。 私だけが酔っぱらい、「なんだい、君たちは失敬じゃあないか。てめえたちが飲めない程の珍妙なウイスキイを、客にすすめるとは、ひどいじゃないか。」 と笑いながら言って、記者・・・ 太宰治 「美男子と煙草」
・・・あとは、もっぱら敬遠主義だ。君も少しは考えるがいい。かえれ。路頭に迷ったって、僕の知ったことじゃない。」 もじもじして、「路頭は、寒くて、いや。」 三木は、あやうく噴き出しそうになり、「笑わせようたって、だめさ。」言いながら・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・それとも、フロベエルほどのお人なら、ちゃんと見抜いて、けれどもそれは汚ならしく、とてもロマンスにならぬ故、知らぬふりして敬遠しているのでございましょうか。でも、敬遠なんて、ずるい、ずるい。結婚のまえの夜、または、なつかしくてならぬ人と五年ぶ・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・私は絹のものを、ぞろりと着流してフェルト草履をはき、ステッキを振り廻して歩く事が出来ないたちなので、その絹のものも、いきおい敬遠の形で、この一、二年、友人の見合いに立ち合った時と、甲府の家内の里へ正月に遊びに行った時と、二度しか着ていない。・・・ 太宰治 「服装に就いて」
出典:青空文庫