・・・つまり「経国美談」や「雪中梅」の翻訳文学が一方にあり、福沢諭吉の新興ブルジョアジーの啓蒙者としての活動が重大な指針となった時代が去った後は、徳川末期の戯作者の気風、現実に対する無批判な妥協的態度が、西欧の文学的潮流の移植の側らにあって、常に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ ここで、面白く思われるのは、自由民権が唱えられた時代からのより社会的性質のつよい文筆家たちは「経国美談」の作者の矢野龍溪にしろ中江兆民にしろ、主として新聞人として活躍していることである。作者紅葉とは編輯者対寄稿家という現代の関係が既に・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・ 私小説はそれを克服して後始めて本格小説となるという河上徹太郎、小林秀雄両氏などの説も今の作家にとっては何よりの警告であったと思うが、そのようになるための方法としてでも私は制作をするということが本業ではなく副業であると見る見方をとらねば・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・これ偶像破壊者の危機に対する最第一の警告である。 予は自ら知れる限りにおいて生まれながらの反逆者であった。小学の児童としては楠正成を非難する心を持ち、中学の少年としては教育者の僭越と無精神とを呪った。教育者の権威に煩わされなくなった時代・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・他の多くの真実についても私は同じように警告を付けたいと思う。それほどに自然を説く人々の眼は自然に対してふさがっているのである。 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫