・・・これは、私の考案したものでございまして。お皿ひとつひとつに、それぞれ、ハムや卵や、パセリや、キャベツ、ほうれんそう、お台所に残って在るもの一切合切、いろとりどりに、美しく配合させて、手際よく並べて出すのであって、手数は要らず、経済だし、ちっ・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・あの銀座の有名な化粧品店の、蔓バラ模様の商標は、あの人が考案したもので、それだけでは無く、あの化粧品店から売り出されている香水、石鹸、おしろいなどのレッテル意匠、それから新聞の広告も、ほとんど、あの人の図案だったのでございます。十年もまえか・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・ 月島丸が沈没して、その捜索が問題となった時に、中村先生がいろいろの考案をされて、当時学生であったわれわれがお手伝いをして予備実験をやった。なんでも大きなラッパのようなものをこしらえて、それをあの池の水中に沈め、別の所へ、小さなボイラー・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・従来の盲探しの手数のかかる方法に代わるに簡単で確実な合理的方法を考案してこれを実地に応用し良好の成績を収めた。現在我邦でおよそ汽船を造っている限りの工場で君の方法の行われていないところはないそうである。これと似た問題としては電気扇の振動や雑・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・これをなるべく忠実に正確に記録すべき器械の考案や、また器械が理想的でない場合の記録の判断や、そういう事が主要な問題である。それから一歩を進むれば、震源地の判定というような問題に触れる事にはなるが、更にもう一歩を進めるところまで行く暇のないの・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・いちばん延び過ぎた所から始めるという植物の発育を本位に置いた考案もあった。こんな事にまで現代ふうの見方を持って来るとすれば、ともかくも科学的に能率をよくするために前にあげた第一の要求を満たす方法を選んだほうがよさそうに思われた。能率を論ずる・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・は到底引き延ばせるはずがないので、それで、この嫌疑をなるべく濃厚に念入りにするために色々と面倒な複雑なメカニズムが考案されなければならないのである。こういう考案をするのは丁度われわれが何かちょっとした器械でも考案する場合といくらか似たところ・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・同じ筆法で行けば弘安四年六月三十日から七月一日へかけて玄界灘を通過した低気圧は我邦の存亡に多大の影響があったのである。もし当時元軍に現時の気象学の知識があったなら、あの攻撃はあるいはもう数ヶ月延期したかもしれない。 日露戦役の際でも我軍・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・ 弘安四年に日本に襲来した蒙古の軍船が折からの颱風のために覆没してそのために国難を免れたのはあまりに有名な話である。日本武尊東征の途中の遭難とか、義経の大物浦の物語とかは果して颱風であったかどうか分らないから別として、日本書紀時代におけ・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・これが戦禍と重なり合って起こったとしたらその結果はどうなったであろうか、想像するだけでも恐ろしいことである。弘安の昔と昭和の今日とでは世の中が一変していることを忘れてはならないのである。 戦争はぜひとも避けようと思えば人間の力で避けられ・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
出典:青空文庫