・・・されど真淵一派は『万葉』を解きて『万葉』を解かず、口には『万葉』をたたえながらおのが歌は『古今』以下の俗調を学ぶがごときトンチンカンを演出して笑を後世に貽したるのみ。『万葉』が遥に他集に抽んでたるは論を待たず。その抽んでたる所以は、他集の歌・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・もし時代をもって言えば国の東西を問わず、上世には消極的美多く後世には積極的美多し。されば唐時代の文学より悟入したる芭蕉は俳句の上に消極の意匠を用うること多く、従って後世芭蕉派と称する者また多くこれに倣う。その寂といい、雅といい、幽玄といい、・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・二 これらは新しい、よりよい世界の構成材料を提供しようとはする。けれどもそれは全く、作者に未知な絶えざる驚異に値する世界自身の発展であって、けっして畸形に捏ねあげられた煤色のユートピアではない。三 これらはけっして偽でも仮空でも窃盗・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・火星は惑星ですね、ところがあいつは立派な恒星なんです。」「惑星、恒星ってどういうんですの。」「惑星というのはですね、自分で光らないやつです。つまりほかから光を受けてやっと光るように見えるんです。恒星の方は自分で光るやつなんです。お日・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・技法上の強いリアリスティックな構成力、企画性がこの製作者の発展の契機となっているのである。溝口氏が益々奥ゆきとリズムとをもって心理描写を行うようになり、ロマンティシズムを語る素材が拡大され、男らしい生きてとして重さ、明察を加えて行ったらば、・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・こういう意見も文化に対する政策というものが、その一つの構成要素として現在の幅のなかにふくんでいるものであろう。 日本の民衆にシェークスピアを理解させたいという希望が、そういう方法で思いつかれることは誰しも無限の感想を唆られると思う。・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・小泉氏は、公正な学問的立場からの批判という点を力説しているし、読む人も「公平な」知識を得ようとして読むのでしょうが、客観的に見たとき小泉氏の立場の本質は、資本主義体制の擁護に役立つだけです。社会歴史の展望的な面へ科学的でない批判を集中して、・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・一九三二年の三月後から一九四五年八月までつづいた日本のファシズム権力は治安維持法と情報局の取しまりとで社会主義という文字そのものが印刷物にあることを禁じ、当然ソヴェト事情の公正な紹介も許さなかった。その期間ソヴェトに関して出版されたものは、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・で、日本の近代社会にのこされている半封建性と、その影響をうけているインテリゲンチアの精神構成をとりあげていることは正しかった。治安維持法の犠牲となった作家たちが、転向の動機を、めいめいの個人的性格の問題、インテリゲンチアと勤労大衆との間にあ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・こういう問題も、わたしたちは、人民の基本的人権の擁護とブルジョア的な法律適用による裁判が果して公正なものであるかどうかについての絶え間ない注目とを基礎にして、判断してゆく必要がある。参議院の引揚援護委員会も吉村隊事件ではいかがわしい委員会の・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
出典:青空文庫