・・・ 私は島田の父上[自注7]の御好物の海苔をおことづけ願いましたし、べったら漬もあるし、まあ東京からおかえりらしいお土産が揃って結構でした。 お立ちになってから林町へ一緒にまわってお風呂に入って、十二時一寸前家へかえりました。栄さんが・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・しかもそれについて語りかたは、歴史の現実とともに急激に推進されて、わたしたちは、創作方法についてメリー・キューリー夫人が放射能を求めて、黒くて臭い鉱物を煮つめていた時代のように語ってばかりいることは許されない。こんにちジョリオ・キューリーが・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・特に好物といえばあい鴨です。 野菜では、胡瓜とかサラダとか、見た眼に新鮮な感じのするものを好みます。殊に五月時分、はしりの胡瓜をなまのまま輪切りにして塩をつけてたべるのは、毎年その季節の楽しみの一つです。 嫌いなものといえば、何より・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・私は、弱い女が死に者狂いで泣き叫ぶ声や、いとけない子供が死にかかって母親をさがす、そう云う声が好物だ。ヴィンダー 愈事は順調に運ぶ。彼方此方の隅々から赤い焔がふき出したぞ。ほら、壊れた、脆い、木造りの梁に火の粉がとびつく。ぱっと拡がる。・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・非常な勉強ずきで哲学から鉱物学、結晶学まで専門にやったマリエッタ・シャギニャーンは、当時紡績織物専門学校で紡績についての研究をやっている。―― 一九一四年に、第一次世界大戦がはじまって、一九一七年三月には、ケレンスキーの仮政府ができ、つ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・ ゲーテが五つ六つの時、父親の鉱物標本を譜面台の上に積み重ねて祭壇をこしらえ、レンズで集めた太陽の光で香をたいて、その前に燻じ、万有の神に捧げたという話は、世界文学史の上に「黄金のように輝いた少年」ゲーテにふさわしい逸話として或る意味で・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・詩人は母が好物だというのでわざわざとってくれたローズの目の様な美くしいブドーを吸いながら、雪の日に旅立って門を出た時の事から今日門をくぐる時までの所を丁寧に話しました。母親も祖母も不思議な物語の様な話に耳をそば立てました。朗な声の調子は丁度・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫